horseplay

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『……』



「……」





…おいおい、なんだよさっきからこの女はよォ…。










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ここは江戸。



そしてかぶき町。




万事屋はいつにも増して暇なため街をフラフラ歩いていた。
するといきなり、ほんとにいきなり目の前に女が落ちて来た。



というか空から落ちて来た。


どすんっ、と鈍い音をたて落ちた女はしばらくするとむくりと起き上がる。









そして今、




その女はありえないくらい自分をガン見している。






「……」


『……』





…ちょ、なんなのほんとに…。
何コレ?マジでいい加減にしてくんねーかな。



なんかすっげー見つめられてるんですけど…。




なんか見つめられてる部分が焼け焦げそうなくらい見つめられてるんですけど。






「……あのー、ちょっと?」

『あ゙あ゙?』

「……。」






ちょ、ほんとに何この子!!



「あ゙あ゙?」じゃねェよ!!濁音つけんじゃねぇよ!!



こっちが「あ゙あ゙?」だよ!!




『それ』

「ん?」




未だ俺のある一点を見つめたまま女が口を開いた。




『それどこの美容院?』

「は?」

『アタシの友達もさァ〜……あ。トモコっつーんだけどォ、パーマあてたつもりが爆発したらしくてェ〜。トモコの担当した奴ちょ〜初心者だったらしいんだよねェ〜。マジありえなくね?まじパネェし』

「……」






…コレ、あれだよね?




俺の頭のこと言ってるよね?







「オイ、てめ『何そのカッコ?』







………。





『コスプレ?今夏だしねェ〜。でももう祭とか終わってね?』

「おい――」




俺が言い返そうとするとこの女は「あ!」とか言って横を通った天人をガン見し大袈裟すぎる程に「きも〜!!」とか言っている。



あ!おめ…っ、指さすなよ!!



あの天人泣いてるじゃねェかァァァ!!やめろ!頼むからやめてあげてお願い!!






ていうか俺から言わせるとこの女の服装のが変だ。



なんだコイツ?
つーかさっき…、






「おい、オメーはどこから来たっつーか落ちて来たんだ?」

『は?東京だし』

「とうきょう?」

『東京。』

「…………」

『あ、何?アンタ田舎もん?』

「……」





女は『あ〜だから着物?納得納得〜』と言い手を叩いて笑っている。








…いや、お前が何?




東京って何?




つーかいつまで手ェ叩いてんだァァァ!!めっさ腹立つゥゥゥゥ!!






『てゆ〜かさァ〜。ここドコ?来たことないわマジで。つーか古くね?建物とか古くね?人もなんか古くね?アレもコレもどれも古くね?全体的に古くね?』





おい小娘ェェ!!人が古いってどういう意味だァァァ!!
つーか古い古いしつけェェよ!!




俺は青筋を浮かべながらもなんとか平静を保ちながら答える。





「…かぶき町だよ」

『ああ、新宿の?』

「は?」

『何その顔?マジうけるんですけど』




そう言うとその女はまたもや大袈裟に笑い出しやがった。




…本気で腹立つなこの女
。素で女を殴りたい、と思ったのは初めてだ。



さっきからワケわかんねーこと言いやがるし。
ダメだ。俺にはもう手に負えん。迷子のようだが早急に見捨てよう。





「じゃ、俺もう行くから」

『ちょ、待ちなよ。アタシこれから彼氏とデートなんだよねェ〜。つーわけでマルキュービルまで連れてけよ」

「どういうわけで?いやつーか知らねェよ。なんだよそのビル。ねェよ」

『いやあるから』

「いやねーから」

『あるし』

「ねぇし」

『……ハァ。ほんとワケわかんないんだけどォ〜。とりあえずお巡りんとこ連れてけよ』




おめェが溜め息つくなァァァア!!



こっちがつきたいわァァァア!!



つーかこいつさっきから人に頼む態度じゃねェェェェ!!







――――――――




――――――




結局、俺はこの女を警察まで届けることにした。



道中もこの女は果てしなくウザかった。



ワケわかんねーこと話してるし。天人通るたびに笑いころげてるし。そのたんびに天人泣かせるし。




ああー、早くこいつ届けて家帰ろ。







そうこうしてるうちに目的地に到着した。
悪の巣窟が今日は輝いて見えるなオイ。俺も末期だ。とっととコイツ預けて帰ろ。







「おら、ここが警察だ」

『なに、なんでこんな古いわけェ〜?つか広くね?ここがにほんていえんてヤツ?』

「日本庭園な。そんくらい漢字で言えボケ」

『は?ちょ〜失礼なんですけど〜』

「いいから早く入れ。
おーい、誰かいねぇかァァァ!!」

『ちょ、うるさい』

「うるせェェェエ!」




この女っ、もうほんっと腹立つはいちいち!!







「おい、何してやがる?」

「遅ェよ」




後ろを振り返る。
やっと警察登場だ。



見回りからの帰りらしいマヨラーだ。






「ちょっとこの娘預かれよ。迷子なんだよ」

「迷子だァ?」

「そ。かぶき町で見つけたから拾ってきた。じゃ、俺の役目は終わったんで後よろしく〜」

「おい、待てや」




俺が帰ろうとするとマヨラーがガシッと襟首を掴んだ。




「ふざけんな。ここは迷子センターじゃねェんだよ」

「市民の役に立つのがおめェらの仕事だろうが。俺じゃあこの女の相手は無理だ」

「は…?」




そこでマヨラーは俺の隣の女を見た。
俺も女に目を移す。と、



女はこれでもかというくらいマヨラーをガン見している。



最初に俺と会った頃と一緒だ。



しかし今回は顔をひどく歪めている。



「…おい、何見てんだ」

『アンタ…大丈夫?』

「は?」

『目ェ、変だよ。ちょ、それ病気じゃね?』

「「………」」

『マジやばいよ。アタシのじいちゃんが死んだ時と同じ目ェしてんだけど。マジやばいって……、あんた……大丈夫?』



―カチャリ




「テメェェ、死にてェんだな?そうなんだな?」

「おいィィィ!ちょっと待てェェェ!その子アレなんだって!ちょっと頭おかしいんだって!」

『ねぇ何コレ?剣?おもちゃ?』

「やめろやァァァア!」



「おいおいなんの騒ぎだ?」



屯所の中からゴリラが出て来た。



『マジで?本物初めて見た』




こいつは目を見開いている。



まぁ…わかるけどよ。




「トシ、なんだこのお嬢さんは」

「頭の狂った迷子だ」

『何ソレ、まじありえないじゃん』

「いやありえてるからね。鏡で見てみろ」

『失礼なやつ〜。
ね、つーかなんでゴリラなの?』

「お嬢さんよく見て。僕は人間です」

『うぉっ。また喋った!』

「…」

「ねぇお前さっきから何?ボケ倒してんの?素なの?大丈夫?」

『アタシまじ自分飾らないから〜』

「全身飾ってるじゃねぇか。重装備じゃねぇか」

『もういいよ。もういいからマジ渋谷連れてけってカンジ〜。あ、ここ歌舞伎町だっけ?とりあえず駅まで連れてけよ。んで渋谷までどう乗り換えればいいワケ〜?』

「「「…。」」」



多分この二人は目の前の女が何言ってんのか一切理解できていないだろう。俺にもさっぱりわからねェ。


女はまだだらだらと喋り続けていた。







「おい、一体なんなの?どうしちゃったのあの娘?なんか色々凄いんですけど」



ゴリラが娘に聞こえないよう小声で耳打ちする。
その間も女は変な呪文を唱えている。




「なんか空から降ってきた。俺じゃ対処しきれねーからお巡りさんよろしく」

「空ってなんだよ。っつってもお前オレ達にどうしろってんだよ。まったく話通じないよあの娘」

「大丈夫だ。お前ならできる。迷えるガキを救うのもテメーらの仕事だ」

「…そ、そうか?」

「おい近藤さん。うまいこと丸め込まれてんじゃねぇよ」

『そんでさ〜。て、あんたら聞いてる〜?ちょ〜必死に相談してるんですけど〜』

「どこが必死なんだ。何をそんなに必死なんだ」

「…長引きそうだな。とりあえず中で話を聞こうか」

『は?ちょ、マジ連行とか勘弁なんですけど〜。…まいっか。とりあえず先に便所行かしてくんない?マジやばい。マジくる』

「ああ、構わんよ。狭いが女中さん達の厠があるから使ってくれ」






『じょちゅーって何?』『かわやって何?』とゴリラに質問をぶつけながらも女はとりあえず中へと入って行った。



ふぅ。やっと煩い奴が消えたぜ。


俺は清々しい気持ちで隣を見た。







「…」



「…さてと、」







こんな厄介事を持ち込みがって、という怨みの目を向けてくるマヨラに気づかないフリをして俺は奴らの住家を後にした。












―――――――――
とりあえず第一印象は最悪






         

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