短編
□新八
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「てめぇはまた他の女にうつつをぬかしやがってェェ、ざけんなよコラァァァ!!」
「ひっ…すいません隊長ォォォ!!」
「ごめんですむかァァ!!鼻フックデストロイヤーの刑だァァァァ!!」
「ギャアアアア!!」
―ズドォォォォン!!
「規律に背いた罰だ。今回はこの辺で許してやる。行こう、タカチン」
「おう」
同じ親衛隊のタカチンを連れ、僕らはカフェを出ようとした。
『ちょい待ち』
「「?」」
出ようとした所で呼び止められ、僕とタカチンは同時に振り向く。
するとその店のウェイトレスがくい、と僕らのいるテーブルを親指で示した。
『みんなが集まる憩いの場で友人を振り回すんはいただけへんなぁ。周りのお客さんに迷惑やろ』
「あ、すいません」
『グラスもめっちゃ割れたんやで。まぁ今日は店長休みやから、今回は多めに見たるわ。でもな、兄さんらももうええ歳なんやし、分別ぐらいつくやろ』
『次から気をつけてや』とそっけなく言い残し、そのウェイトレスは店の中に戻ると、割れたグラスの片付けに入った。
なんだかすごく悪い事をした気分だ。
気まずくなりタカチンを見た。
「……」
「…タカチン?」
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「はぁ?タカチンの恋の協力をしてくれ?」
数日後。
親衛隊活動から万事屋に戻った僕は、意を決して銀さんに頼む事にした。
「お願いします」
「お願いしますってお前…えらいいきなりだな」
「青臭いガキアルナ。今時、恋の相談なんて流行んねーんだヨ」
「そんな事言わないでよ。タカチンは本気なんだから。…でも知り合いなわけじゃないし…タカチンもあれからその子に会いに行くもののなかなか話しかけられないから八方塞がりなんだよ」
「おめーらはアイドルばっか追っかけてそういう経験値を積んでねーからな」
「銀ちゃんを見るアル。経験を積みすぎて髪がもじゃもじゃネ。それに比べてお前はなんだヨ。ピーンてしてるアル。男はちょっと脇道にそれるくらいがちょうどいいネ」
「髪で例えんのやめてくんない?わかりにくいしイラッとするから。
で?相手はどんな娘なの?」
「馴れ初めは何アルカ?」
「…馴れ初めっていうか…まぁ、カフェのウェイトレスをしてる子なんだけど…」
「ウェイトレス?おーいいじゃないいいじゃない」
「まぁちょっと萌え系のカフェなんですけどね……て、なんですかその目はやめてくれません?別に萌え萌えじゃんけんとかありませんから。それに僕ら親衛隊の打ち合わせで適当に入っただけだし」
「適当に入った店が萌え系っつーところがスゲーよ」
「きもいアル死ねヨ」
「んだとコルァァァ!!
て、そんな話はいいんですよ!!それよりタカチンです!!」
「なんだよ。何マジになってんだよ。おめーとしては規律違反でぶっ殺してーんだろ隊長」
「……」
「違うのか?」
銀さんの問い掛けに僕はしばらく考え込むように引き結んでいた口を静かに開いた。
「…僕も最初はそう思ってたんですけどね。…でも…」
「「?」」
「…せっかく、現実世界の女の子を好きになる事ができたんだ。ちょっと応援してあげたいんですよ」
嘘、偽りはなかった。僕は本気でそう思った。
なぜならタカチン自身が本気だったからだ。
「…新八よォ、おめー大人になったじゃねーか」
「銀さん」
「人の色恋の邪魔するなんざ、寝覚めがワリーからな」
「それじゃあ…」
「ああ。付き合うぜ」
「銀さん…」とおもわず僕は泣きそうになった。
「付き合いきれないアル」と唾を吐く神楽ちゃんの声は聞こえないフリをした。