短編
□番長8
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「先日またうちの生徒が狙われたらしい」
教壇に立つ土方は真剣な目で自分を見つめる風紀委員生徒に訴えた。
放課後の委員会。副委員長である土方に進行は任せ近藤は委員長らしく教壇から離れた窓辺に置いた席に座り腕組みしてそれを神妙に聞いていた。
今日の議題は最近、多発しているカツアゲ事件だ。
「両校の教師が出て行ってその場は丸くおさめたらしいがな」
「最近やたらと物騒になってきたな。とうとううちの生徒にも被害が出たときたもんだ」
「ああ、アンタ以外にも出るようになっちまった」
近藤は幾度か夜兎高校の生徒からカツアゲを受けている。
土方は疲れたようにはぁ、と溜め息をつく。ポケットから煙草を取り出しそうになるが止める。
「こりゃ見回りを強化するしかねぇな。先生だけじゃ頼りねェ」
「私どもの出番ですね」
それまでの沈黙を破りカタリと立ち上がる生徒。廊下側の一番前に座っていた生徒だ。
「佐々木」
二つに分かれる風紀委員。近藤率いる風紀委員。そして風紀委員から分裂した佐々木率いる俗称、見回り委員。この二つの委員会は似ていて異なるものだ。
普段は委員会も別だが今日は緊急的に近藤が見回り委員も召集したのだ。
「相手は夜兎工業高校ですか。またタチの悪い学校が相手ですね」
「だったら引っ込んでろ。インテリには酷だろうしな」
「これはまた随分な言い方ですね。私どもは自らの時間を割いてわざわざ出向いてるのですよ。そちらの委員長殿に呼ばれましてね」
佐々木は近藤に視線を投げかける。近藤は罰が悪そうに眉を下げ険悪なムードを執り成すように言う。
「まぁまぁ。事はここまでに及んだんだ。まず我々が一丸となるところから始めようじゃないか。なぁみんな」
「…そうですね。じゃあ要領よく熟すために二つに分けやしょう。近藤さん、佐々木さんを始めとした俺達対土方さんで」
「なんでわざわざそこで切れるんだよ!!お前オレがそんなに嫌いか!?」
「はい」
「知ってるよ!!」
「総悟ォォてめェェ!!」と土方は自分のいた教壇を飛び越え沖田に食ってかかった。
二人は座席を次々と跳び移りながら追い掛けあいを始めてしまった。
「…生徒を守ることはおろか一丸となるのはさらに難しいみたいですね」
「……」
「どうですか委員長。副委員長の案もいいですが、ここは出方を変えませんか」
「どういう意味ですか?」
「いやたいした事ではないんですが。相手を追い詰めたい一心で風紀委員全員を放つのではなく、今まで通りの日常を装いましょう。ただし、戦闘部隊の二人を放ちます」
「戦闘部隊?二人?」
「こちらからは信女。そちらは沖田君」
二人の会話の端々が聞こえた土方は沖田を追い掛けるのをやめ「ちっ」と舌打ちを打ち乱れた制服を正す。
「いつんな物騒な部隊ができたんだよ。うちはチンピラじゃねぇんだぞ」
「おやおや、我々風紀委員が陰でなんて言われているか、あなたは知らないのですね」
「それこそ息の合わねぇ二人を組ませてなにを得るんだよ」
「そんな事はありませんよ。喧嘩に特化した二人が組めば自然と息も合うもんです」
「なにを根拠に言ってんだ」
「俺ァいいですぜ」
沖田がさらりと言う。佐々木の後ろに隠れもごもごとドーナツを頬張る信女を見る。
「おいドーナツ女。おめぇはどうなんでィ?」
信女は最後の一口をごくりと飲み込み袖で口を吹く。
「異三郎の言う事なら、私は従うだけ」
「というわけです。あんまり派手にやって夜兎校を刺激するわけにもいきませんし、ここは佐々木さんの意見に従いやしょう」
土方は「…どうする委員長」と近藤に託した。近藤は腕を組み少し考え込んだ。
「…二人が構わんのなら佐々木君の案でいこう」
土方は頭を抱えた。
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―――――――
「やいコラ。てめぇか最近うちの生徒襲ってんなァ」
「チンピラ抹殺部隊が一人、今井信女が成敗します」
放課後の夜兎校の校門前。生徒を前にガラの悪いサングラスをかけた沖田と信女が鉄パイプを構えた。
―ズダダダダ!!
「だぁぁかぁぁらぁぁ、チンピラじゃねぇんだよ俺達ゃァァァァ!!」
陰から二人の様子を伺っていた土方が直ぐさま二人に跳び蹴りをしなんとか制した。
「何考えてんだテメェェらァァァ!!」
「目には目を、歯には歯をってやつでさァ」
「こっちから出向いてどうすんだよ!!何がチンピラ抹殺部隊だ!!チンピラはてめぇらだろ!!」
そこへ「おやおや」と佐々木がやってくる。
「やりすぎましたか。人選ミスでしたかね」
「完全にな!!」
「オイなんだぁ、兄ちゃんら。誰の許可得て出入りしてんだぁ?」
「!!」
校門前のざわめきに夜兎校の生徒が集まってきた。
土方はやばいと思った。今ここで騒ぎを起こすのはよくない。完全にこっちが喧嘩を売った事になる。
絡む夜兎校の生徒は土方達の制服をまじまじと見て眉間にしわをよせた。
「おい…おめぇらまさか銀魂高校の…」
「だったらなんだってんでィ。やるってんならやってやんよ、…この女がな」
「お前なに煽ってんだ!!しかも女をさしあいに出すんじゃねぇ!!」
「オイ…マジか…ヤッてくれんのか…×××や××××もヤッてくれんのか?」
「オイィィィ、あちらさんノッてきたぞォォォ!!なんかえらく呼吸乱れてきたぞォォォ!!」
「もちろんでさァ。この女器用なんで。×××から××××までなんでもござれ――」
信女は沖田の後頭部をバッドで殴りつけた。
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―――――――
「とまぁそういうわけです」
「…ふーん」
次の日。
土方の説明に銀八は何を考えてるでもなく頬杖をつきながら面倒くさげに返事をする。
沖田と信女の強引な行動が学校で大きく取り上げられてしまったのだ。
幸い夜兎工業高校からは何も言われなかったのだが、風紀委員らしからぬやり方に校長が銀八を呼び付け叱る。本来なら風紀委員を担当する松平に訴えるべきなのだが、そこはまぁ校長がびびってしまい、担任だからという少々、無理矢理だが銀八に火の粉が飛んだ。
そして今、風紀委員の近藤、土方、佐々木が職員室に呼び出されていた。
「で、どうするわけ今後は?」
「もともと俺は反対だったんスよ。よって本来の案に戻します」
「ほー。で、本来の案て?」
「集団下校です」
「集団下校?」
銀八は眉間にしわをよせ繰り返した。
「お前ばっかじゃねーの?ここは小学校じゃねーんだよ」
「だがこっちからしばいてく荒いやり方じゃドンパチになるだけだ。今は守りを固める方が先決だ」
「それで集団下校?」
「下校方面が同じ奴が集まって集団になって帰る。大人数なら夜兎校の連中もわざわざ襲うようなマネはしねぇはずだ。守りにもなり万が一からまれても怪我するこたァねーだろ」
「…お前らは賛成なわけ?」
銀八は土方の両脇にいる近藤と佐々木に振る。
「私はそんなうまくはいかないと思いますがね」
佐々木が躊躇いもなく言う。土方の眉がぴくりと動いた。
「自慢じゃありませんがZ組ですよ?あのクラスが集団になれば今よりとんでもない事が起こりそうですが」
「俺もそう思う」
銀八も頷く。
「かりにも自分のクラスでしょうが。ちったァ信用して下さいよ。そうならないためにもちゃんと風紀委員が見張りますよ」
「おめーも信用してねーじゃん。ちゃっかり保険はってんじゃん」
「一応っスよ」
面倒くさい。銀八は心底思う。まったくのり気ではないはっきり言ってもうどうでもいい。
「…まぁ佐々木の案も潰れたっつー話だし、一回やってみっか」
なんかもうホント面倒くさい。銀八はそう思いながら今回のカツアゲ事件。仲は悪いが学園の風紀を正す、二つの委員会に託す事にした。
END