短編
□晴太
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『しっ…』
今は昼間である。
こんな時間に遊女が何してるんだ、と思うかもしれないけれど、もちろん仕事はあります。
路上でのティッシュ配り。
でもそれも私の仕事。
私は全力でティッシュを配ります。
しかしそんな私の目に、懐かしい人物が映りました。
『師匠ォォ!!』
持っていたティッシュをバラバラ落とし、突如現れた神威のもとに私は駆け寄る。
『久しぶりやんかァァ!!ごっさ久しぶりやんかァァァ!!』
「真昼間から何やってんの?チリ紙配って、随分と落ちぶれたもんだ」
『のっけからテンション下がる事言わんといて!!』
***
「あまりにも客が取れずに外の仕事…か」
場所を移し、事情を話し終わると神威はやれやれ、といったような顔で私を見る。
私はなんだか居心地悪く、肩を竦める。
「はー…。久しぶりに様子を見に来てみれば、まったく成長してないね。むしろ劣化してるね」
『相変わらずや…。相変わらず私のハートをぐいぐいえぐりよる…、懐かしい』
「おやおや、ちょいと見ない間にM属性になっちゃったのかな」
『ちゃうわボケェ!!』
ほんま相変わらずや。
ああもうなんか懐かしすぎる。
「で?そんな仕事を任された揚句、素直に従ってると」
『他にどうすればええねん』
「あのさぁ、プライドというものはないの?他の店に移るとかすればいいじゃない」
『アホか!!この不景気にそんなほいほい見つかるか!!』
師匠は世間知らずや。
世の中そんなうまくいったら私はとっくに花魁やがな。
「まぁいい。そこまで期待してなかったしね」
『グサリ。』
「しょうがない。またオレが人肌脱ぐかな」
『マジでか。警察沙汰は勘弁してな』
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『う…うわ…』
神威に連れられ着いた場所。
すぐに分かった。
ここは吉原だ。
花魁の街。
『ちょ、ちょ、なんなんいきなり。ハードル高すぎやがな』
「荒療治でいこう」
『さすが師匠や』
師匠は臆する事なくずんずん進んで行く。
そんな師匠に行き交う遊女は頬を染めていた。
…さすがや。
師匠の名はダテじゃないな。
そして私達はある男に会った。
「どうも。お久しぶりです、鳳仙の旦那」
部屋の奥にどっしりと座るこの男。
夜王、鳳仙。
レベルの高い遊女をはべらし優雅にそこに座る。
「久方ぶりに顔を見せたと思えば、女と同伴か神威。いったい何用だ」
パンパン、と閉じた扇子で肩を叩きながらオッサンは言う。
そこにあるのは威圧感。