text

□スタートラインA
2ページ/2ページ


「あー、今日ジャンプの発売日だ。俺ちょっと寄ってくけど、大地どーする?」

「俺も寄りたい…けど、時間による。えっと今何時…」

コンビニの前で立ち止まって、ズボンのポケットを探る。

あれ。
あれれ?

両ポケットから手を引っこ抜き、肩に掛けていたカバンのジッパーを開けて、中を乱暴にまさぐる。
俺のカバンにはほとんど物が入っていないから(今日は練習もなかったから、練習着とかさえもない)、あるかないかはすぐに分かる。


無い。



「大地、どした?」

カバンの口に手を突っ込んだまま硬直している俺を見て杉も何か嫌なことを直感したらしく、恐る恐る俺に尋ねてきた。

「ケータイ、ない」

「…うわ、悲惨」

「ああああー俺のバカ〜!」

「ちょっ、バカ!近所めーわく!!」

頭を抱えて叫びだした俺の口を杉が慌ててふさいだ。
…つっても、ここら辺に民家はあんまないけど。

「えーと、どこに置いてきたのかは分かってんの?」

杉にきかれて、俺は必死に記憶をたどる。普段は動きのニブイ頭も、こうした緊急事態にはいつもより多めに回転してくれるらしい。火事場のバカ力というやつか(結局バカなんだけど)。
たしか部室を片付ける時に、邪魔になるからと言って、カバンと携帯を部室の横にあるベンチの上に放り投げた。
そして片づけが終わると、カバンの紐を引っつかんでタイさんのところに行った。その時携帯を手に取った記憶は無い。
…てことは。

それを話すと、杉はガクリと体を前屈させて盛大なため息をついた。

「バッカじゃないの?なーんでケータイとカバンを別個にしとくんだよー。そんなのお前なら置いてくに決まってんじゃんか」

…なーんて言われても、その時気が付けなかったもんはしょうがない。いくら言っても後の祭りだ。覆水盆に返らず、だ(これは今日の国語の授業で習った言葉。こういう時って、なぜか無駄なことばっか頭に浮かんでくる)。

「とにかく場所がはっきり分かってんなら、今取りに行ったほうが良いんじゃないの」

そう言う杉の指は、俺たちがたった今来た道を指し示していた。
十二、三分かけて歩いて気た道のりは、全速力で走れば五分、いや三分。
それに明日行って無かったときの方が、ショックは遥かに大きい。

「うん、行ってくる。じゃーな、杉!それよろしく!」

俺はより身軽になるために唯一の持ち物であったカバンを杉に放り投げて、走り出しながら言った。
後ろで杉が何やら叫んでいたけど、もう聞こえない。

.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ