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□スタートラインB
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さっきまで歩きながら見ていた道沿いの風景が、180度ひっくり返って俺の後ろに流れていく。
俺たちの夏が終わったとはいえ、季節はまだまだ残暑。やや蒸し暑い夜気の中、自分で起こす向かい風が涼しい。
ふと、俺の前方の空にある雲の切れ目から月の青白い顔がのぞいた。真っ暗だった辺りに、うす黄色の優しい光が差し込む。
今にも再び雲の後ろに隠れてしまいそうなその月を追いかけるように、人気のない道をひた走った。

学校に到着したころには、月はまた空からいなくなってしまっていた。
暗闇の中を手探りで正門に近づいていくと、案の定それはすでに閉められていた。仕方がないので、そのままよじ登って向こう側にストンと降りる。こういうのは、昔から大得意。
グラウンドは学校の裏側だから、校舎に沿ってぐるりと回りこむ。
校舎の影は、一層闇が濃い。気を抜くと、うっかり草とか石ころにつまずいて転んでしまいそうだった。
整然と並ぶ温室の群を通り過ぎてそのまま行くと、やっとグラウンドに到着だ。

慣れてきた目のお陰でボンヤリと見える部室の輪郭を頼りに、足元に注意しながら進む。
ある程度近づいてから恐る恐る手を伸ばすと、伸ばしきった指の先がザラッとした部室の壁に触れた。
それにほっとしてそのまま壁伝いに歩いていくと、90度右に曲がってすぐのところで、すねの辺りに固いものが当たった。ベンチだ。
その脇に膝をついて、あわてて周囲を探る。でも、暗くてほとんど何も見えない。
どうやらベンチの上にはないらしい。
俺は座面と地面との間に手を差し入れて、砂地の数センチ上で手を動かしてみる。ちょこちょこ生えている雑草が手に当たって、くすぐったい。
それでもなかなか見つからなくて、座面に手をついて体を横に倒し、奥をのぞいた。やっぱり見えないなー、とぼやきながら目を凝らす。

と、その時辺り一面に光が注いだ。
振り仰ぐと、月が再びぽっかりと浮かんでいた。ドーム全体を覆っていた大きな雲のかたまりがゆっくりと動いてようやくできた、澄んだ濃紺の隙間に。

目を元に戻すと、ベンチの下、部室の壁ギリギリのところに見慣れた俺のケータイが横たわっていた。
あーよかったーと思わず声に出して、それを手に取る。表面にくっついている砂を払ってポケットに突っ込み、早く帰ろう、と思ってすっくと立ち上がった。
そしてふと、ベンチの向こうに目を遣った。


「…わ!?」

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