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□スタートラインD
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先輩が去って、音のない世界が帰ってきた。
その中で一人、呆然と地面に座り込んでいる俺。

今までのは一体、何だったんだろう。

しばらくその体勢のままでぼんやりとしていた。さっきまでの出来事が、頭の中でぐるぐる回っている。俺の心はいろんな気持ちがごっちゃになっていて、すごく微妙な色合い。
先輩は、いきなり全てをぶちまけたかと思ったら、いきなり去っていってしまった。まるで台風か嵐みたいに。
なんとなく、先輩の後を追う気にはなれなかった。体からも心からも、なんだか力が抜けてしまっていた。

先輩に言われたことをひとつひとつ思い返してみる。それらは耳にも心にも深く刻まれていて、ケータイの置き場所よりも遥かに思い出しやすかった。
そしてそのひとつひとつを、も一度そのまま受け止めてみる。

切っ先の鋭いそれらの言葉に、少しも傷つかなかった、と言えばそれは嘘かもしれない。
でも、あのとき傷ついていたのは多分先輩の方だ。俺をにらみつける目を見てそれが分かった。だから、俺自身のことはそれほどたいしたことではないと思う。
気づけなかったことに対して情けないと思う気持ちが、ないわけじゃない。言ってくれなかったことに対して悲しいと思う気持ちが、ないわけじゃない。
でも、それらを全部ひっくるめても、意外と俺の中にはマイナスの気持ちは強くなかった。



ただ、「知った」んだ。


そんなシンプルな思い。



今まで知らなかったこと。
先輩が心に抱えていたもの。
それらを、俺は今日知れたんだ。

それは、俺にとって大きなことに思えた。
知ってさえいれば、明日から何かができるはずだから。



ふー、と大きく息を吐きながら、首をゆっくりと後ろに垂れる。
必然的に見上げた夜空には、たくさんの星が瞬いていた。先輩との一悶着の間に、空を厚く覆っていた雲はすっかり地球の裏側の空へ行ってしまったらしい。
無数の恒星を見上げながら、体の後ろに突いていた両手をズリズリと滑らせて、そのまま上半身だけ地面に横たわる。後頭部がこすれて少し痛いけれど、そんなことがちっとも気にならないぐらい、目の前に広がる星の海はきれいだった。その真ん中に、少し欠けた月が煌々と輝いている。
明日は快晴だ。


キャッチャーとして、先輩を守ろう。
先輩を傷つける他の何かから、そして先輩を傷つける先輩自身から。


ここがきっと、先輩とのスタートライン。


明日先輩に会ったら、最初に何て言おう。
そんなことを考えていたら、うとうとしてきた。



end.
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