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□ブレイク、ブロークン@
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タイさんにとっての最後の夏の最後の試合。結果はコールド、負け。
あと一点でも取っていれば来なかったはずの結果。でもそれは、あと一点でも取られていなければ、と言い換えることもできる。


結局、俺のせいか。


何度振り返ってみても、はじき出される結論は同じ。でもその結論を認めるのは辛すぎるから、責任を転嫁する宛て先を求めて俺はもう一度全てを振り返ってみる。
そして見事に堂々巡りだ。



そんな風にして西浦戦後の数日が過ぎて、迎えたタイさんの引退式の日。
引退式、つってもただのお別れパーティーみたいなもんだけど、こんな気持ちの俺が、タイさんの顔を正面から見れるわけがない。
タイさんの夏を終わらせたのは、自分だと思っているのに。



最初にタイさんが短く挨拶をして、そのあとはわあわあ大騒ぎ。
俺は始終、タイさんに近すぎず、かといって不自然に遠すぎずといった適度な距離を保ちながら、他のみんなに紛れて曖昧に笑っていた。
しかし会が始まってから二時間ほどたったとき、タイさんが笑いながら俺のそばへ来て、隣にちょこんと座った。自然な言葉を見つけることができないでいる俺に向かって、タイさんは思い出話を始める。

「最初にイッチャンを見たときはさ、すげー気ィ強そうだからどうしようかと思ったよ、俺」

目つきも怖かったしさー、と言いながら頭を掻くタイさんに向かって俺はどうにか笑った。
そのまま数分間、コチコチの笑顔のままとりとめのないような会話をしていると、部屋の向こうからタイさーん、と呼ぶ声が聞こえた。
思わず出そうになった安堵のため息を、すんでのところで飲み込む。
タイさんはそっちを振り返って、今行くー、と答えてから、もう一度俺の顔をみた。それはさっきまでとは少し違う表情で、俺の顔に張り付いていた偽物の笑いも思わず剥がれ落ちる。

「イッチャン、二年間ありがとうな。んでもって…色々、ごめんな」

そう言うと、タイさんはスクッと立ち上がって、呼ばれた方へと歩いていった。
俺はそんなタイさんの姿をぼんやり見送った。


何ですか、ありがとうって。
何ですか、ごめんって。


違う。


謝るべきなのは、タイさんじゃないのに。


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