Book

□SS
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「柳君」


背後から聞き慣れた声で名前を呼ばれ立ち止まり振り返る。

廊下の向こうから同じ部活のダブルスペアが揃って歩いてくる。

声をかけてきたほうはにこやかな表情で、もう一人は相変わらずの無愛想な表情をしていた。


「お前達は最近よく二人で行動しているな」

「だって俺ら仲えぇから」

「最近仁王君と偶然お会いすることが多くて、柳君も今から部室に向かわれるんでしたら一緒に行きませんか?」

「あぁ、そうさせてもらおう」


比呂士の誘いに頷くと仁王は小さく舌打ちした。

もちろん比呂士には気付かれないように考慮して。

気付かない比呂士にも内心呆れつつ三人で部室へ向かう。


「柳君から借りた本、とても面白くて素敵なお話でした」

「気に入ったのなら明日続きを持ってくるが、借りるか?」

「はいっ、ぜひ!」


期待に満ちた眼差しを向けてくる比呂士の頭を片手で撫でると強い視線を感じ顔を向ける。

俺を見ている比呂士は気付かないだろうが、お前の隣にいる男の嫉妬に満ちた鋭い眼差しをどうにかしてもらいたい。

全く、手のかかる奴だ…。


「比呂士」

「はい…?」


不思議そうに見つめてくる比呂士の耳元へ口を近づけ。


「仁王のほうを向いてみろ」


囁いた言葉に直ぐさま仁王を振り返る比呂士の素直さに思わず小さく笑みを零してしまった。

見事に勘違いしたらしい仁王は我慢の限界が訪れたのか苛立ったように俺へと手を伸ばすが振り返った比呂士と目が合うと慌てて手を下ろし顔を背けた。


「仁王君?」


その様子をどう捉えたのか比呂士は心配そうに仁王の顔を覗き込もうとするが手で遮られた。

必死な攻防が始まるが垣間見えた仁王の横顔は赤く。

部室に着いてこの些細な変化に精市が気付いたらどうやって説明しようかと思案を巡らせた。




End
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