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□その他
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ここは黒の世界。

辺り一面黒に覆い尽くされている。

ただ見えるのは自分の姿だけ。

黒に混ざれず浮き出た存在。


「なぁ」


ある時どこからか声が聞こえてきた。

自分以外誰も存在しないと思っていたから驚いた。

同時に興味を引かれゆっくりと顔を上げると遠くに人の姿が見て取れた。

けれどその人物は白に包まれていてはっきりとは見えなかった。


「貴方は…」

「そんな真っ暗なとこで何しとるんじゃ?」


声だけは相手に届くようだ。

何をしているのかと問われても、ただ座っているだけで特に何もしていない。


「こっちにきんしゃい、こっちは明るいぜよ」


たしかに眩しすぎるくらい明るかった。

その明るさに近付いてみたいという好奇心と見知らぬ世界に対する恐怖心で揺れた。

だがそれ以上に自分以外の存在に心が惹かれた。

立ち上がって一歩を踏み出す。


「そのまま、ゆっくりでえぇから歩いてきんしゃい」


彼の声を頼りに真っ直ぐに歩いていく。


「大分近くなってきたのぅ」


徐々に彼へと近付いているのが実感できた。

見えてきた彼は自分と同じぐらいの背格好をしている。


「あと少しぜよ」


白に包まれた彼の髪も白に近い銀色で。

距離が近付くにつれて白から浮き出た彼の姿がはっきりと見え始めていた。


「ほら、もう手を伸ばせば…」


黒と白の境目ぎりぎりに立つ彼が伸ばした手を同じように手を伸ばして掴む。


「やっと会えたな」


強い力で手を引かれて彼の胸に飛び込む体をしっかりと抱き留められた。

耳元で噛み締めるように言われたその言葉を聞いて、目から涙が零れ落ちるのがわかった。


「ずっと……貴方に会えるのを待ち侘びていました…」


彼の首に腕を回して目を閉じる。


「もう二度とお前を一人にはせん……だから、戻ろう」


次に目を開けたとき世界はきっと、




End
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