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□小さな一言
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(西浦高校…)
西浦高校入学式、と豪快な字で書かれた看板を一瞥し校門を通り抜けた。
小学校の卒業式で誰かが述べた
「入学式は不安と期待でいっぱいでした」
という決まり文句を思い出しながら
(実際、不安ばっかだ…)
と否定する自分。
笑い合いながら自分を追い越す二人組。
元気な声で挨拶しているといえば聞こえはいいが、悲鳴のように「おはようございます」と叫んでいる生徒。
先輩だろうか。
正直、どうでもよかった。
教室では同じ中学だった者同士が集まり会話している。
(同じ中学の人、いないんだ…)
三橋廉は高校入学に合わせ県外から引っ越してきた。
西浦に中学時代の友達が見当たらないのも当然だ。
教室では声をかけることもかけられることもなく入学式が終わった。
そして放課後、気になっていたある場所へ向かう。
グラウンド、野球部。
(見るだけ、見るだけ―)
ピッチャー、つまり野球は三橋にとって後ろめたいものだった。
昔、贔屓でピッチャーを「させてもらっていた」からである。
だがどうしても気になり、見学に行くことにした。