□切欠
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式後、校舎に別れを告げて帰路につこうと自転車置き場へ向かう途中で

「三橋!」

と、ふいに大声で呼ばれておどおど振り向いた。

「あ、阿部くん……」

目の周りが微かに赤く染まった阿部くんが立っていた。

阿部くんは入学式から変わらない歯切れの悪い俺の言葉に聞きなれた様子で、

「その、今までありがとな。」

阿部くんから一番聞きたかった、俺自身を肯定する言葉。

「俺、三橋と3年間過ごして変わったよ。」

心地よい旋律で俺の胸に染み込んでいく。

「お前のこと、投手としてじゃなくて」

腕を引っ張られる。

驚きに目を閉じる。

そして、温もりを感じてそっと目を開けると俺は阿部くんの腕の中で。

「本当に、好きになっちまった。」

ぎゅっとより一層強く抱きしめられる。

嬉しくて嬉しくて、何も考えられない。

言葉が出てこない。

俺の一番大切な人が、俺を求めてくれている。

「……ごめん。気持ち悪いよな。」

離れる阿部くんの温度。

微かに低下する俺の体温。

阿部くんは俺が言葉を発する前に走って行ってしまった。

「あ、阿部くん……俺も……」

やっと搾り出した言葉も時既に遅し、伝えたい人がいなくなってしまった。

(メール、しなきゃ。)

カバンを漁ったところで携帯電話は家で充電したままだと気づく。

(早く帰ろう!)

幸せで胸が一杯になって、地面を蹴った。
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