†鳳宍......................

□*10月8日。
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12時20分、校内中に昼休みのチャイムが鳴り響く。
起立、礼が終わると同時に、待ってましたといわんばかりに生徒達が弁当を取り出す。
宍戸も例のごとく弁当を取りだし、教室を飛び出した。
北館3階の南階段で待ち合わせ、とそう決めている。
息をきらして生徒達の間を走り抜けていくと、待ち合わせ場所が見えてきた。
長太郎の姿は、まだないようだ。


(よっし!今日は俺の勝ち!)


三年の教室よりも二年の方がこの場所に近いので、いつも長太郎が先に待っている。
今日こそは先に着くぞと毎日張り合っているのだ。
(長太郎にその気はない)
それから三十秒もしないうちに、長太郎がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
長太郎も宍戸の存在に気付いて、小走りに近づいてくる。


(短い白髪が揺れて綺麗だ…なんて思ってない!)

「今日はいつもに増して早いですね〜」

「当然だ!いつもいつも負けてられますかっての」


誇らしげに腕を組んで、早々に階段を上がっていく。
少し後ろを付いてくる長太郎から、くすくすと小さく笑い声が聞こえる。
それが気に障った…とは少し違うが、なんか嫌だ。


「なっ、なんだよ!」


「ははっ、ごめんなさい、宍戸さんがあまりに可愛かったので」


「なっ…!」


顔に熱が湧き出るのを自覚した。
こんな品の良い、綺麗な笑顔で見つめられてはどうしようもない。
視界から長太郎以外のものがすべて消えて、目を背けられない。


(この顔、ずるい…)


そのまま固まっていると、大きくて優しい手で髪を撫でられた。
馬鹿にしてるのか、と反論する暇も与えてくれない。


「さ、行きましょう。早く二人きりになりたいです」


細い宍戸の手を握り、歩き出す。
いつもなら罵声と共に振りほどかれる手も、今日ばかりは繋がれたままだった。
どうしてなんて言葉で確認するまでもない。
繋いだ手から、すべての気持ちが伝わってくるようだった。



貴方は恥ずかしがり屋さんだから、言わなくていいですよ。

でも貴方は俺が言葉にしないと不安になるでしょう?



「俺も大好きです、宍戸さん…」



キスしたい衝動を抑えて、足早に階段を上がっていった。
目指すは屋上。
二人きりの時間。



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