禁断宝物庫
□ナルシス・ノワール
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…覚えていますか?
貴方が初めて僕の家に来た秋の初め。
――貴方は兄様の友達。
…僕、貴方みたいな綺麗な男の人、はじめて見ました。
――白い頬をした少年。
「兄様はお友達と、…大切なお話があるからな」「はい…」
「ごめんね、一寸の間、お兄さんを借りるね」
一瞬だけ、僕を見てくれたけれど
――貴方の瞳には何時も兄様が映っていた。
キィィ…
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――ドアの陰から抱き合う二人を始めて見たとき……
「綺麗…//;」
左の胸元を、思わず握り締めた。
――胸が、騒いだ。
この気持ちは、一体何と云うのだろう。
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僕の兄様が、なにも言わずに家を出たのは、冬の終わり。
…当然と言えば当然だけど
――貴方も二度と来なかった……
「ケンカでもしたのかな?母様は、どう思います?」
「……さぁ…」
――母様は嘆き悲しみ、家には明かりも灯らない。
(…だって、僕では電気のスイッチに手が届かないもの)
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…大人になるまで、知らされずにいた。
――「町外れの湖に二人は、沈んだ」と。
「神に背いた」
「愛の報いだ」
僕が街を通る度に、人々は囁く。
…けれど、僕は返す言葉もないから…
――目を閉じるだけ。
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…今日は学校をズル休みして、例の湖にやってきた。
冬の寒さも、やっと薄れてきた春先に。
湖の外周を、靴音を立てずに歩く。
以前2人がそうしたように…
辺りから、ポツリと離れて咲いていた、2輪の水仙が揺れ、仄かに香る。
「ぁ…っ」
想像出来ますか?
水仙の深い香りが、どんなに甘美だったかを……
…まるで、あの日の2人のように…
あれから何年経ったでしょう?
僕は、未だに2人の面影を追い、もはや誰も愛せません。
目を瞑れば、優しい兄様の微笑みが。
耳をすませば、胸の高鳴りを甦らせる、貴方の声が聞こえるのですから……。