禁断宝物庫

□ナルシス・ノワール
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…覚えていますか?
貴方が初めて僕の家に来た秋の初め。

――貴方は兄様の友達。

…僕、貴方みたいな綺麗な男の人、はじめて見ました。

――白い頬をした少年。

「兄様はお友達と、…大切なお話があるからな」「はい…」
「ごめんね、一寸の間、お兄さんを借りるね」

一瞬だけ、僕を見てくれたけれど

――貴方の瞳には何時も兄様が映っていた。

キィィ…

****************

――ドアの陰から抱き合う二人を始めて見たとき……

「綺麗…//;」

左の胸元を、思わず握り締めた。

――胸が、騒いだ。

この気持ちは、一体何と云うのだろう。

****************

僕の兄様が、なにも言わずに家を出たのは、冬の終わり。
…当然と言えば当然だけど

――貴方も二度と来なかった……

「ケンカでもしたのかな?母様は、どう思います?」
「……さぁ…」

――母様は嘆き悲しみ、家には明かりも灯らない。

(…だって、僕では電気のスイッチに手が届かないもの)

****************

…大人になるまで、知らされずにいた。

――「町外れの湖に二人は、沈んだ」と。

「神に背いた」
「愛の報いだ」
僕が街を通る度に、人々は囁く。

…けれど、僕は返す言葉もないから…

――目を閉じるだけ。

****************

…今日は学校をズル休みして、例の湖にやってきた。
冬の寒さも、やっと薄れてきた春先に。

湖の外周を、靴音を立てずに歩く。
以前2人がそうしたように…

辺りから、ポツリと離れて咲いていた、2輪の水仙が揺れ、仄かに香る。

「ぁ…っ」

想像出来ますか?
水仙の深い香りが、どんなに甘美だったかを……

…まるで、あの日の2人のように…


あれから何年経ったでしょう?
僕は、未だに2人の面影を追い、もはや誰も愛せません。
目を瞑れば、優しい兄様の微笑みが。
耳をすませば、胸の高鳴りを甦らせる、貴方の声が聞こえるのですから……。
 

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