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□ろくな女じゃ94
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「梅雨時だなあ…。」



お使い帰りの道々、今にも降り出すか降り出さないかの曇天を見上げて溜め息を吐く。

うーん、これからの1カ月を考えるとなかなか頭が痛い。いや、別に自分はいいんだけど。

これからは何度も嵐が来るし、そうなると船の上にばかりいられない。海が酷く荒れたら、最悪町まで避難しなきゃ。ってことは、殆どの船員の陸酔いが問題なわけで。



「最後の酔い止めは鬼蜘蛛丸さんが使っちゃったし…。」



薬に頼りすぎるのもあれだけど、実際あの酔い止めには助かってるから何とも言えない。自分もいつかそうなる可能性は大いにあるわけだから、他人事じゃないんだよなあ。

とりあえず、カモメ君はいつ来てくれるんだろ。出来れば嵐が来る前に来てくれると助かるんだよなあ。じゃないと、忍術学園にまでお使いにやられそうな気が…。陸仕事も嫌いじゃないけど、こう毎日立て続けにお使いに回されてるとなあ…流石に億劫…



「網問様ー!」

「え、」



ぼんやり惰性で足を進めていたその時、後方から呼び止める声に我に返って振り返る。そこには、道の向こうから小走りに駆けてくる姿。


わ、まさかどうか早く来ますようにと祈る前に来るとは思わなかった。仲間の中でも下っ端の自分を、様付けで呼ぶ人間なんてそう何人もいない。で、この声は。



「カモメ君!」

「ご無沙汰しておりました!お元気でしたか?」

「お陰様で!間切に聞いたよ、この間はありがとう。」

「とんでもない。こちらこそいつも新鮮なお魚を有難うございます。今日もお使いですか?」

「そう。酔い止めなくなっちゃったから、陸酔いしない奴らばっかり回されちゃってさ。この通り。」

「はは、それは難儀でしたね。」

「うん、だから早々来てくれて助かったよ。…って、あれ?今日は珍しく他の生徒さんも一緒?」

「ああ!食満さん!潮江さん!いきなり走ってすみません!」



と、相変わらず綺麗に揃えたおかっぱの黒髪を大きく揺らして振り返るカモメ君の目線の先には、荷車を押し引きやって来る同じ年くらい5男の子が二人。私服だけど、確かあの二人は忍術学園の生徒さんに間違い無い筈。


カモメ君は二人に手を振ってからまたこっちに向き直ると、同級生です、と笑う。



「薬も持ってきましたが、今日は食堂のおばちゃんの用も足しに来ました。第三協栄丸様もいらっしゃいますか?」

「いるいる、カモメ君のこと待ってたよ。二人はお魚運び担当ですか?こんにちは。」

「あ、水練の…こんにちは。」

「こんにちは、魚、宜しくお願いします。」

「はい、お疲れ様です。」



ようやくこっちに追い付いた二人は、きちんと挨拶を返しつつも、何故か呆気にとられた風の顔をしていた。カモメ君はそれを当たり前のように眺めて笑ってるけど…え、何?何か変なことしたっけ?



「さあ行きましょう、網問様。早く第三協栄丸様に会いたいです。」

「あ、うん。相変わらずカモメ君はお頭に懐いてるよね。」

「あんなに面白くて可愛い方はなかなかいませんよ!」

「それは何か複雑だなあ。仮にもうちの総大将だからね、お頭。」

「素晴らしい上司をお持ちで羨ましいです。」



言って、悪戯っぽく笑う顔は相変わらず女の子みたいに中性的だ。結局後ろの二人の反応については何かはぐらかされた気がしないでもないけど…ま、いっか。笑ってるってことは、聞くほどのことでもないってことだよね。

さて、間切はどんな反応するかな。ちゃんとお礼を言えるだろうか。



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