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□ろくな女じゃ95
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「お頭ーカモメ君が来」
「第三協栄丸様ー!!」
「ん?ぉおっ!?カモメーっ!!!」
網問の言葉を遮って放たれる声と共に、腕を広げて突進してくる少年。それを受け止めるお頭。─を、船の上から眺める。
懐かしい光景だ。と言っても、前に同じ光景を見てから半年も経っていない。それでも懐かしく感じるのは、あの小僧がまた僅かに大きくなったと感じたからだろうか。幼子のような髪型は、いつまで経っても変わらないが。
「カモメーっ!今回はなかなか来なかったじゃないか!心配したぞ!」
「そのお気持ち有り難く!色々と立て込んでおりまして。お元気そうで何よりです!」
「お前もな!今日は魚だろう?おばちゃんに言っといたからなあ。丁度今船が戻ったところだから、たんまり積んでいけよ!」
「私もたんまり…とは酒豪の皆々様を前に言えませんが、梅酒をお持ち致しましたよ。お納め頂ければ幸いに存じます!」
「いつもありがとなあ!」
「いいえとんでもない!」
「おいカモメ、いるんなら手伝え。」
「蜻蛉様!」
このまま続けさせると延々とやってそうな挨拶合戦に、舟の上から横槍を入れてみる。と、いつものことだが何故か俺まで様付けで振り返るその姿。でかくなっても無邪気さは変わらないもんだ。
「ご無沙汰しております!」
「おう。なんだ、今日は仲間も一緒か。」
「はい!もう友人がいないなどとは言わせませんよ。」
「そんなこと言った覚えはねえなあ。」
「何とまあ!」
「おーい!カモメが来てるぞー!」
「カモメー!」
「薬ー!」
「酒ー!!」
「てめえら持ち場に戻れー。」
長く来ていないカモメの来訪にざわつく野郎共に一喝入れるが、そうか、酒か、と内心一緒になって浮かれる。
忍術学園の生徒であるコイツが、いつからこうして個人的な用事を目的に年に何度も訪れるようになったかは覚えていない。忍術学園仕込みの薬作りの腕前で、お頭の船酔いを緩和させ、そしてまた逆に俺達の陸酔いをも緩和させたことから、度々薬を作っては訪れるようになった。そこに趣味だという自家製の梅酒が加わったのは、割と最近だったと記憶している。
まあ、一言で言えば変な奴なんだ。年頃の野郎らしくない髪型然り、馬鹿丁寧な言葉使い然り。不意に年相応の少年らしさを見せたと思えば、一応年上である間切達を手の上で転がして遊んでいたりする。お頭に心酔するほど懐き、船員全員に親切だが、いつになってもあくまで他人行儀。の割に、酒も薬も無償で譲ってくるんだから、よく解らない奴だ。
しかし、一番解らないところは、他にある。
「さあ皆様、お疲れ様です。今年も梅酒を持って参りましたので、是非」
「今回は量が多いなー!」
「飲む今飲む。お頭!いいですよね!」
「味見程度にしとけよー。」
「昼間っから飲む酒はいいなあ〜。」
「と、言いたいところですが。」
俄然盛り上がる船員達が浜辺に集まって行くのを後ろから眺めつつ、のんびりと追いついたその時、カモメの中性的な声がやおら制止をかけた。
思いがけない水差しに、一瞬止まる船員。カモメの後ろで瓶を荷車から下ろしていた忍術学園の生徒二人も止まって、カモメだけが不敵に笑う。
「今回は、条件が一つ。」
「条件…?」
「何だ?条件って。」
「…魚やってんだから条件もなにもねえだろ。図々しい。」
「やっと喋ったと思ったら揚げ足とるんだからー間切は。」
「蜻蛉様を所望します。」
相変わらずひねくれる間切の言葉なぞ一切気にかけず、きっぱり。
あまりにさらりと言うもんだから、名指しされた本人すらすぐに反応できずに一拍、間を置く。本人というのは、つまり俺なんだが。なんだが……
…………あ?俺?