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□ろくな女じゃ97
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「蜻蛉さんの治療は終わったかい?」

「とても治療などとは呼べぬ気休めですよ。義丸様。」



そんな風に相変わらず、謙遜し慣れた風に返事をするのは忍術学園の忍たまこと、愛称カモメ。野郎には勿体無いサラストの黒髪が海に映えて綺麗だ。─なんてのは、まあ女以外に言う気は全く無いが。



「義丸様はお気付きだったんですね。」

「まあ、何となくなあ。今戻って来た時も蜻蛉さん、変な顔してたから、ああ案の定、ってな。」

「はは!義丸様にはかないません!」



笑いながらもカモメの手はテキパキと薬らしき小壺やら何やらを片付ける。野郎共に心配されるのが好ましくない蜻蛉さんに気を遣ったのか、そこは岩陰の平たい場所だった。ほんと、見透かした様に気を回す奴だよコイツは。



「そうそう、如何でしたか?今年の梅酒の出来は。」

「期待に外れずいい味だった。毎年ありがとな。」

「お喜び頂けたなら何より。」



にこりと人好きのする笑顔で返す返事は、見事に可もなく不可もない。

いつものこととは言え、それは堅苦しいと言うより、どこか選んだように当たり障りのない言葉だと思うのは、俺の中にある不信感のせいか?

カモメは親切で礼儀正しい奴だ。それはとっくに解ってる。が、それを解った今でも、俺の中でひっそりと、しかし消えてくれないこの引っかかりは、あの日からずっと居座ったままだった。















「お頭、鬼さん。」

「お、ヨシ。」

「そっちは大丈夫だったか?」

「気が抜けるほどあっさりと。ドクタケの奴ら、やっぱり火薬使って来ませんでしたよ。」

「そうか…。」

「で、商船は?」

「…今、こっちに向かってる。」

「ああ、ほんとだ。」



海に目を向けると、聞くまでもなく近付いていた商船。福富屋さんとやり取りするくらいだからなあ、船もそれなりだ。

あ、で、福富屋さんの運び役は?



「もう船着くけど、まだ来てないの?」

「…いや、この船に乗っている筈だ。」

「え?」



何で運び役が船に乗ってやって来るんだ?まさか、向こうからずっと護衛してきたとか…いやいやそれはない。だってお頭、こないだ護衛の奴と打ち合わせしてくるって陸に…。


どういうこと?と、重ねて尋ねるその前に、お頭と鬼さんが船着き場に走り出す。妙に慌てているように見えるけど、え?本当にどうしたっての?

仕方無く、疑問を抱えたまま二人を追いかけて到着した船を迎える。船の上から身を乗り出すようにして顔を出した商船の船員は、お頭達以上に大慌てだった。



「兵庫水軍の皆さん!!」

「ああ!品物は無事か!?敵船は退いたみたいだが!」

「それが…!賊の一人がいつの間にかこちらの船に乗り込んでいて、件の品を盗られてしまったんです!」

「何だと!?」

「じゃあカモメ君は…!?すみません!先程海から少年が行きませんでしたか!?」

「いや…誰か見たか?」

「海から来たとすりゃ、品を盗んでった男くらいだぜ!少年っていう歳には見えなかったしな!」

「そんなことより!どうか奴らを追って頂けませんか!?とても私らには取り返せそうにもありません!もう海岸も近かったので、是非とも兵庫水軍の皆様のご助力をと…!」

「ああ勿論だ!お前達!すぐに船を出す準備をしろ!」

「お頭!カモメ君は…!」

「カモメなら大丈夫だ。俺達は今やるべきことをするぞ。」

「……?」





鬼さんからの伝達で、商船が襲われてたのは知っていたから、最悪の事態として品が盗られたってのは予想の範囲内だ。けど。

さっきから間に入る、カモメってのは何なんだ?カモメって、あのカモメ?鳥の?こんな時に?



「鬼さん。」

「……。」



そして鬼さんの、この謎の気の落ち様。いつになく張り詰めた表情は、困惑の色を含んで海に目を凝らしていた。…俺達がちょっといない間に、傷付いたカモメを助けて〜…みたいな下りがあったんだろうか。いや、冗談だけど。さっき少年とか言ってたし。

兎に角何があったか知らないけど、お頭の言う通り、今はやるべきことをやらないと。


と、鬼さんの腕を取って、無理矢理引っ張って行こうとした、その時。




「ぷはっ!」

「、っ!!カモメ君!!」

「え?わっ!?」



浅瀬の波間に何かが見えた、と思った次の瞬間、鬼さんが腕を振り払って海に走り出した。

ていうか今またカモメって…本当にカモメの話なの?と、呆気に取られつつ、もう一度海を見れば、浮かんでいたのは黒い影。鳥……じゃない。人の頭だ!



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