4
□ろくな女じゃ98
1ページ/2ページ
「そうかぁ〜暫く来れなくなるのか。」
「はい。こちらからはなかなか伺えなくなることと思いますが、忍術学園にご用事があった際には、是非お顔を拝見させて下さいませ!」
「おお勿論だ!お前も、気が向いたらいつでも来いよ。待ってるぞ!」
「はいっ!」
元気な返事を一つ、カモメと忍術学園の友達二人の背中を見送った。度々振り返っては手を振る姿が、消えて見えなくなるまで。
「いつもあっと言う間に帰っちゃいますね、カモメ君。」
「そうだなあ。カモメだからな!」
と、名残惜しそうに見送るのは網問。
「行っちまいましたか。今度はいつ来るんですかね。」
「そういや蜻蛉、目の傷はどうだ?」
「…お陰様で。」
と、どうにもカモメには敵わないのが蜻蛉。
「…俺、やっぱり、あの時ドクタケの火薬を使えなくしたのも、カモメ君だと思うんです。」
「福富さんの件のか?どうだろうなあ。カモメだからな。」
疑うというより、確認をしているだけみたいな声色で言うのは鬼蜘蛛丸。
「やっぱ俺はカモメは女だと思うんだけどな〜。お頭、本当は知ってんでしょ?」
「お前はまだ言ってるのか、ヨシ…。」
「だから俺も知らないって。まあどっちでもカモメはカモメだからいいじゃないか。」
「えー。」
と、何とも不服そうな声を上げるのがらしい義丸。
「…結局、アイツの本当の名前、何なんスか。」
「おっ、間切もヨシ兄さん派?」
「一緒にすんなスケコマシ。」
最後に間切がふてくされて、俺は応えた。
「忘れちまったんだよなあ。」
過去二度だけ、俺は変装をしていないカモメの姿を見たことがある。今は必ず黒髪の少年の姿をして俺たちの前に現れるが、初めに見たアイツの髪は、それは見事な赤毛だった。その時の性別は、まず間違い無く女の子だったと思う。
一度目はいつかの夏、嵐の次の日砂浜に座り込んでいた。砂だらけの小さな体を払うことなく、岩陰と砂浜の間で、擬態をするように。
『お?なんだお前?父ちゃんと母ちゃんはどうした?』
『いません。』
『…一人か。』
『迎えが来ます。』
『そうか。じゃあ、名前は何てんだ?』
『…──、』
うーん、確かに名前を聞いたんだけどなあ。
まあその時は結局、頑なにそこから動こうとしない根気に負けて、日のある内は放っておこうと決めた。そして夕方、まだいたら連れて帰ろうと浜辺をぐるりと回ったが、姿は無し。迎えが来たんだな。よかったよかった。
と、よくある─…わけじゃあないが、他愛の無いある日の出来事だったと、記憶を頭の隅に片付けてから、二年経ったある日。あの赤毛がまた、目の前に現れる。
所用で学園長先生のところに訪れた時、珍しい赤毛のくのたまを見かけたのだ。ああ、あの子は忍術学園の子だったんだなあと、妙にはっきり思い出して声をかけた。
まあその後は、学園長先生を巻き込んで色々あったんだが、長いので割愛する。兎に角その時も初めて会った時も、俺はカモメの名前を覚えられず、カモメは子どもらしくにこりともしなかった。