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□ろくな女じゃ18
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「さんたんだかずま、くん。」
「は、はい。」
「うん、長いな。さんたんと呼んでいいかい。」
「や、やめてください…。」
「ははは、悪い悪い。」
そう言ってその人はまた瞼を伏せた。長い睫が女の人らしい。口調はこんなに男らしいのに。
昼休みの当番で保健室に来たら、見知らぬくのたまの先輩が先生と話していた。僕に気付いてお昼交代をする先生は、あの二人は彼女に任せていいですからね、と、布団で眠っている五年の久々知先輩と竹谷先輩を置いて、あっさり部屋を出て行ってしまい、正直気まずい。
真っ赤な赤毛が特徴的な先輩。思わずじっと観察していたら、不意にばっちり目が合った。驚いて反らしてから、悪かったかなとちらりまた見ると、またまたばちりと目が合う。ず、ずっと見られてた。恥ずかしくて俯く僕を他所に、先輩は僕に名前を尋ねたり、変なあだ名をつけたり、暇なんだろうか。
「…あのう、」
「うん?」
「お昼、食べたんですか。もしだったら、替わりますけど…。」
「ああ、ご心配なく。ありがとう。」
それとなく頑張って声をかけたのに、先輩は一言二言で話を終えてしまった。何なんだろう、話をしたいわけじゃないんだ?女の人ってよくわかんないよ。こういう日に限って保健室に人は来ないし、今日は委員長と乱太郎が備品補充の当番なのに二人もまだ来ない。え、これってもしかして、また不運どうのこうのっていう。
「さんたん。」
「はい。えっ、あっ、だから止めて下さい!」
「返事をくれたじゃないか。」
「そ、それは…ぼーっとしてたからついうっかり…。」
「そうか。それはまあいいとして、今日の当番は君だけなのかい。」
「保健室は僕だけですけど、備品補充に委員長と乱太郎が来る筈です。」
「ああそうか、乱ちゃんは委員だったね。」
あれ、上級生っぽいからてっきり善法寺先輩の名前に反応するかとおもいきや、意外と乱太郎の名前に反応した。しかもすごく親しげに。知り合いなのかな。というか何となく六年生か五年生だと思っていたけど実際のところどうなんだろう?黙っているのも嫌だから、この辺りを話題にしてみようか。
「あの、」
「ん…んん…?……んんっ!?」
「ん、起きたね?」
僕は本当にタイミングが悪い。いや、僕が悪いわけではないと思うんだけど、とにかく謀ったようなタイミングで眠っていた久々知先輩の方がガバッと跳ね起きて僕の話題は小さく萎む。
でもまあ先輩達が起きたらこの人も帰るんだしいいかと、大人しく遠巻きに眺めていたら、久々知先輩が突然土下座をしだした。ええ。
「そ、その!すみませんでした!!!」
「おいおい、土下座なんざ軽々しくしちゃいかん。」
「す、すみません…あ!八は!?」
「隣でまだ寝ているよ。体はどうだい、まだ痺れるかい。」
「えっと…大丈夫?みたい、です、はい、多分。あっ、ていうか今って…」
「今は昼休みだよ。もうすぐ三郎達が様子を見に…ああ、丁度来たね。」
まだ上手く頭が回らず、パニックになっている久々知先輩に彼女がそう言った途端、ガラリと保健室の扉が開いて驚いた。そこに立っていたのは五年の鉢屋先輩と不破先輩。最初はどっちがどっちか分からなかったけど、後ろから「三郎、ノック!」と咎める声が飛んだから、多分先に部屋に入った方が鉢屋先輩だ。
「おっ、起きたかこの豆腐野郎。五年の優等生がつまみ食いとはなかなかやるじゃないか。」
「さっ三郎!お前見てたのか!?」
「見なくても想像がつくさ。しかもくのたまの食いかけに手を出すとはね。このムッツリ!」
「ちっ違…!」
「もう止めなよ三郎。兵助達、充分痛いめみたんだし。」
「八はまだ腹立つくらい気持ちよさそうに寝てるけどな。いい加減お前も起きろ!」
「って!」
「三郎!」
うわ、病人の頭思い切り蹴ったよ鉢屋先輩。話はさっぱり分からないけど、どうやら鉢屋先輩は機嫌が悪く、久々知先輩と竹谷先輩が彼女に何かして倒れたということは何となく分かった。にしてもあのくのたまの先輩は、これだけ騒がしくても落ち着いてるなあ。ていうか止めてあげないんだ。