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□ろくな女じゃ36
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「うお〜…しろ〜…。」

「次屋先輩。」



は、何だか委員会前なのに疲れていた。これからもっと疲れるのに、大丈夫かな。でも、どうせ疲れるんだから、同じか。



「先輩達は?まだか?」

「まだです。」

「束の間の休息…!」

「…授業お疲れ様でした。」

「ほんとにな…!」

「実技ですか。」

「くのたまと町行ってきた。」

「ほえ。」

「くのたまは怖いな、しろ。」



何だか力一杯次屋先輩はそう言うけど、あんまりくのいち教室と関わらないから分からない。合同実技もまだやったことないし、まあ、いずれするんだから、いいか。それにしても町まで行ってきたのに、よく普通に帰ってこれたなあ先輩。思ってじっと先輩を見るとどこか上の空。あれ、何か、いつもと違う感じがする。



「女装に男装の授業だったんだけどな、くのたま六年はすごいな。凄まじいな。一瞬自分が女になった気がしてな。」

「……気持ち悪い…。」

「そんなもん俺が一番思ってるわバカヤロー。まあお陰でめちゃめちゃ早く実習終わって、他の奴らに大して見られずに帰れたんだけどな。」


「ほあ。」

「あ、ちなみにその先輩ってのが、いっつも滝夜叉丸先輩が話してるくのたまの六年で…って何してんだ?」

「次屋先輩、その人とくっついてました?」

「お、おお?見てたのか?」

「見てませんけど、いいにおいがする。」



違う感じはこれだった。次屋先輩が身振りをする度に香る、先輩じゃない、におい。いい、におい。女の人のにおいだ。先輩もさっきまで、こんな風にくっついてたのかな。…想像するとやっぱり気持ち悪い。



「まあ…そうやってくっついてたらなんかもう情けないっつーかなんつーかでドッと疲れたってわけだ。」

「情けない?」

「ったりまえだろ。完全に手の上で転がされてる感が否めなかったしな。あートラウマになりそうだ。」

「でも先輩だし。」

「でも女だしな。」

「でもくのたまだし。」

「それでも男にゃ面子ってもんがあるんだよ。」




面子…面子かあ。分かるような、分からないような。でも結局、男装女装の授業なんだし、男らしかったくのたまの先輩は優秀で、女らしかった次屋先輩も優秀だったんじゃないかな。先輩にそう言ったら、お前はぼーっとしてるくせに、変に忍向きだよなあと言われた。褒められた気もするし、違う気もする。



「…ま、面子云々言ってらんない場合ばっかだもんな、忍なんて。」

「ほあ。」

「男っつーのは面倒くさいな、しろ。」

「先輩はその人が好きなんですか?」

「…んん?んなわけないだろ初めて会ったのに。」

「でもやけに気にしてるから。」

「……なんつーかな、情けないと思ったら、逆も思ったんだよ。」

「?」

「女だったら、女らしく扱われたいだろうによ。」







次屋先輩が、そのくのたまの先輩と何を話したのかは知らないし、どんな人かも分からない。分かるのは、こんないいにおいがする人ってことだけ。でもそれだけでも、先輩の気持ちが分かる気がした。だって、優しいにおいがする。女の人の、においがする。


次屋先輩が、男の人として、その人のことを、思ってる。






「おー!次屋早いなー!委員会始めるぞー!!」

「せ、先輩!金吾の首締まってますって…!!」

「あーもう三人とも来ちまったか…。んじゃ、もうひと疲れすっかあ。行くぞしろ。」

「ふあい。」






不意にいつもの感じに戻っていた先輩は、向こうからやってくる七松先輩の真似をして、金吾がされているように、自分の体を小脇に抱えた。その腕は、さっきいい香りのした腕。ああ、やっぱり、いいにおいだなあ。






「あっこらしろ!涎垂らすな!」

「ほえ…。」










情けなくても、女々しくても、このにおいにずっと囲まれてた次屋先輩を、僕は少しだけ、羨ましく思います。






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