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□ろくな女じゃ46
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「今日の分はこれで終わりだ。」
耳を疑った。いくつか瞬きをした。我に返って周りに目をやれば、一面鏡を見るように同じ表情が囲んだ。
「…何だお前達その顔は。シャキッと口を閉めんか!だらしない!」
その中で一人、潮江先輩だけが普段と何ら変わりなく、早々と荷物をまとめて自分達にも同様の動きを求める。自分と団蔵が慌ててそれに従う横で、神崎先輩は躊躇いがちにゆっくりと帳簿を閉じ、田村先輩は真っ向から潮江先輩に疑問をぶつけた。
「し、潮江先輩、今日はこれで終わりって…大丈夫なんですか?」
そうだ、委員会が早く終わる(と言ってももう夕飯休憩から随分経ってる)のは願ってもないことだけれど、この皺寄せが次に来るんじゃないか。そう思うと手放しで喜べない。会計委員会は徹夜がない日が滅多にないという異常な活動ぶりだから、こんなに早いとかえって恐ろしくなる。
「今日は全員処理が早かったから大丈夫だ。団蔵の間違いもなかったしな。問題ない。」
言い切る潮江先輩。そうですかと言うしかない田村先輩。潮江先輩の問題ないはあまり信用ならない(というか基準が自分達と違う)からやっぱり手放しで安心はできないけれど、兎に角、今日はもう寝れるということは嬉しかった。
「滅多にないんだ。早く寝ろよ。」
はい、と応える委員の中で、田村先輩だけがちょっと俯いた。田村先輩はさっき、夕飯休憩から戻ってきた後から目が赤い。でも神崎先輩との喧嘩疑惑は疑惑のまま終わって、二人は普通に話していたから、自分達は会計疲れだな、と思っていたんだけど、
「潮江先輩、田村先輩に気ぃ遣ったのかな。」
先輩達と分かれて長屋に戻る時、隣で団蔵が呟いた。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
そう、普段潮江先輩はやりたい放題で、人の意見を聞いてくれなくて、ガサツでその癖変なとこ几帳面で、散々人を振り回してくれるけど、けど、時々何を考えてるのか分からないくらい、察しがいい時や気を遣える面がある。
そういう場面に出くわすと、みんなはどうか知らないけれど、個人的にはすごく、戸惑う。別にいつもと雰囲気が違うわけでも、隈が消えたわけでもないのに、すごく、どうしたらいいか分からなくなる。
飴と鞭じゃないけれど、そういうことを使いこなせるほど、潮江先輩は器用じゃない。だから不満も文句も出るし、いい加減にしろと本気で思うこともある。ただそれを逆に言えば、器用じゃないからこそ時々見えるさり気ない気遣いも優しさも、全部が手段の一つじゃなくて、その人そのもののだということがこの人の魅力、なのかもしれない。多分。
少なくとも自分はそういうところを尊敬していて、誰でもできることじゃないと思ってるんだ。
すごいことだと、思ってる。
「先輩らしいよな。」
「先輩だな。」
だから、会計委員になったこと、実はそんなに、後悔してない。
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