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□ろくな女じゃ56
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「……何で俺は休みの日にまであいつら探してんだ…。」




んなことをこぼしたって聞いてくれる相手もいねえんだから、口にするだけ余計嫌んなるだけなのに、やっぱり口にしてしまう。何なんだあの方向音痴二人は。何でじっとしてらんねんだよ。俺は何も難しいこと言ってねえだろあんの馬鹿共があああ!!!!

と、思い切り叫んでも返事はない。近所迷惑すらかからない。

何故ならここは道も外れた山の直中。人影すら見えないのに、どう迷惑をかけようか。つーかかけられるならかけてえよいっつもこっちがかけられっ放しでよお!!


「…はっ倒す…ぜってー見つけてはっ倒す…!!」

「おやおや、穏やかでない。」

「……へ?」



な…んだ?今、声が。いやでも、気配は…。


ない。そう思って振り返ったのに、そこにはまさかの女の人が一人いて、俺はビビって肩を跳ね上げた。

目線の先、気配なんて全くしなかったそこにいたのは、黒髪で背が高い、普通の町娘的な女の人。見た目と身長からして多分年上だ。その人は荷物らしい小さな包みを片手に抱いて、こっちを見ながら首を傾げる。


いや、首を傾げたいのはこっちの方なんスけど…一体どこから現れて、どうしてこんな山中にいるんだこの人…?

急に現れた見知らぬ人物に声をかけられて、俺は混乱しながらもとりあえず会釈をする。とりあえずっていうか…もしやこの人も迷子とか言わないよな?



「君は何と言ったかな…と、と…とーない…じゃあなくて…。」

「と、富松、です、」



けど、は?何でこの人、俺のこと、



「そうそう。用具の三年生だね。しんちゃんときさちゃんの先輩だ。」

「に…忍術学園の人ですか…。」

「うん。」



な、何だ…学園の人間ならまあ、顔名前くらい知ってても不思議じゃないか。確かに山中とは言え、此処は学園の近くだし。

そこまでは納得したけれど、何でこの人わざわざ声かけてきたんだろうか…向こうはしんべヱ達の知り合いらしいから、委員会繋がりで俺のことを知ってるみたいだけど…俺、全く知らないぞ?この人くのたまだよな…?
まさか事務ってことは…。



「それで、今日も迷子を探して?」

「なっ…何で分かるんですか。」

「君達の迷子探しは、くのいち教室でも有名だからねえ。」




ああ、やっぱくのたまなのかこの人っていうかそんなんで有名ってオイ!嬉しくねえよ!!こんな上級生にも知れてんのかよ!!や、そりゃ前にくのいち教室に迷い込んで行った時もあるけども…!



「それはまあそれとして、よかったら手伝おうかい。」

「はっ…?」

「友達探しを。」

「え、いやっ、でも、アイツらと、関係ないですし!迷惑に、」

「ならないけども。」

「いや、でも、」



いやでも、どうだよ。見知らぬ女の人に手伝ってもらうとか。くのたまならこの山の中で迷うこたないとは思うけど…やっぱ駄目だ。アイツらの迷い方は半端ねえし、いつまでかかるか分からない。



「やっぱり俺一人でも…って、ど、何処行くんですか!?」

「私は南へ。鳥が騒いでいるからね。君は一旦道に出て、忍術学園方向に向かって、その周辺を探すといい。二人一緒に居ればいいが、とりあえず一人でも捕まえたら、私も道に出るとしよう。」

「えっ!?で、でも、」

「私の方が長く学園にいるからね。山の中のことも私の方が詳しいし、もし二人が既に学園に着いていたら骨折り損だ。」




だから頼むよ、と簡潔に指示を出してきたその人は、もうこちらに背中を向けて歩き出している。

あ、あんまりにも的確過ぎて口挟めねえ…!で、でもやっぱこれはアイツらから目離した俺の責任だし、普通立場は逆の筈だ。そうだ、この考えは間違っていない筈。



「あ、あの!!」

「うん?」

「お、俺が山の方行きますから!元はと言えば俺の監督不行き届きだし…何も関係ない人に手伝ってもらって、しかも大変な方やらせられません!」



何とかそう言い切ってザクザク、先輩を追い越して山の奥に入ろうとすると、スイ、と緩い感触が、顎に触れてびくりと止まった。

一瞬蜘蛛の糸か何かかと思ったら、それはク、とはっきりした熱を持つ五つになる。ああ、これは指先だ。判断と同時に俺の顔はその指先によってくるりと回転させられて、目の前には先輩の顔。


ひ、ち…ち、か…!!


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