DYD

□この優しい恋に終止符を
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俺と一緒に生きてくれないか。


『生きる』、という言葉に泣き出しそうになった。
あの、ライナが。
自分の命をいつでも軽んじてきたこの男が、私の存在一つに『生きる』ことの価値を見出したなんて言い出すから、不覚にも私はついに泣き出してしまった。

そう言えばいつからだろう。一方通行だったこの『恋』が、『愛』に変わったのは。
不思議に思ってライナに聞いてみたら、少しの沈黙の後、お前の場合はわかんねぇけど、と前置きをされて、とつとつと話してくれた。

何をもって『恋』というのか、何をもって『愛』というのか、そんな事は俺だって知らない。言葉の意味はわかっても、それを理解はできなかった。けれど。
俺のために笑ってくれるお前に、俺の心を引っ張り上げてくれるお前に、俺は、お前に焦がれる『恋』を見た。
俺だけが見られる笑顔が嬉しかった。お前の言葉一つで暗闇から抜け出してる自分に驚きながらいつの間にか笑ってる自分がいた。
でも、涙を流したお前を見た時は、ぐるぐるぐるぐる、お前が傷ついてるんじゃないかと考えた。無意識に浮足立った心を奈落の底に沈めるくらいの威力があった。それは俺のための涙だったけど・・・この心を終わらせたほうがいいんじゃないかとか、俺なんかよりもまっとうなやつはいくらでもいるわけだし、触れた瞬間にお前まで俺の穢れた血に染まるんじゃないかとかいろいろ考えたけど、やっぱり終わりになんてできなかった。守りたいと、思ってしまったんだ。涙を流す、儚げで、今にもくず折れそうなこの小さなお前が、笑ってくれたら。きっとそれだけで俺は、満ち足りる事が出来るんだろう。
変化の瞬間なんてわからない。でも、教えてくれたのは、お前だよ。フェリス。

涙腺が壊れてしまったに違いない。さらに泣き出す私にライナはあわてて私の涙をぬぐいながらなんで泣くんだと、どこで泣いたんだとうろたえている。拭ってくれる指は少しいつもよりも冷たかった。
緊張している証だ。私を抱きしめるとき、私にキスするとき、私と手を繋ぐとき。付き合い始めはいつも少し冷たい手だった。そして今も、私を抱くときは少し冷たい。そして、その優しいてのひらを温めようと、ぎゅうと私は握り返すのだ。・・・ああ。きっとこういうことなのだ。『愛』というものは。冷たいてのひらから流れてくる、自らが幸せを得る戸惑い、私を穢すんじゃないかという恐怖、愛することをやめられない謝罪、自分を受け入れてほしいという懇願、そして、私の事が好きなのだというこころ。すべてを受け止めたいと、すべてを受け入れて、この男が誰よりも幸せそうに笑ってくれることを望むこの心がきっと『愛』なのだ。


泣き笑いの顔で先ほどの返事を告げたら、お前は嬉しい?それとも苦しい?この言葉はお前のてのひらを温められるだろうか。

さあ、わらってくれ、ライナ。
 

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