HELP ME!

□HELP.9 ドーピング
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いつからか自分の思うように力が発揮できんようなった。
体の奥底にはまだ力が眠っとるのに…いざという時に限ってその力が起きてこん。


2年の時に部長という大役を任されてから、俺の体と心はボロボロになっとった。


部長なんやから誰にも負けたらあかん。
俺は四天宝寺を背負ってんねや。
誰もが納得行く完璧な部長として四天宝寺を全国一まで導かなあかん。
その一心でひたすら練習に励んだ。


でもそれも脆くも崩れ落ちた。
急に現れた1年の存在によって。


アイツのプレーを初めて見た感想は、でたらめなテニス。ただそれだけやった。
せやけどそのでたらめなテニスでどんどん敵を倒して行った。
悔しいけど、アイツは四天宝寺で1番強い。純粋にそう思えた。


結局はどんなに練習をしても才能のあるやつには叶わん。
この世界は才能が全てなんや。


やから俺はドーピングに手を出した。
みんな欲しい物を金を出して買うやろ?それと一緒や。
俺は欲しい物…テクニックを金で買った。
ただそれだけのこと。


試合前は必ずマネージャーに手伝ってもろて、人のおらんとこで注射を打つ。
もうこれがないと自分の実力なんて信じられん。


『蔵…もうこんなんやめようや…こんなんなくても蔵十分強いで?うちはずっと見守ってきたんやから、蔵の強さくらい分かる』

「あかんねん…こんなんじゃまだまだあかん…。…ええからはよ注射打てや」


包帯を外して、莉奈に腕を差し出す。
はよしてくれや…。ドーピングがあってこそ俺の強さは最大限に発揮される。


『…く…ら…!もう打つとこないねん。もう…打てんよ…』


包帯の負かれてた腕に目をやると、隙間なく注射の跡が敷き詰められていた。
自分で見ても痛々しいその腕に唇を噛み締める。
小さく、だけどはっきりと舌打ちをする。


「どこでもええから…早く!1番古い跡の上からしてええよ。注射のあとなんて包帯で隠せんねんから」

『……分かった』


泣きながら注射を打つ莉奈に少しだけ罪悪感を感じる。
でもドーピングだけはやめられん。
これは俺が俺で居られ続ける証や。


そして俺は試合に向かう。
今日もパーフェクトなテニスをし続ける。
試合が終わった後の大歓声が何とも気持ちいい。
俺の名前を呼ぶベンチの声が快感や。


「んーっ、エクスタシー!」


俺は今日も勝ち抜いていく。
俺に敗北なんてありえへん話。
これが作った強さでも構わん。


結局は…


「勝ったモン勝ちや」

「せや、白石!勝ったモン勝ちや」



HELP ME!
(俺を助けて!)
(次からは飲むタイプが必要やな)
(彼の強さは本物やねん)
(あんな薬に頼らんでもええんよ)






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