for seven days
□ONEday
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昨日から一つ変わったことといえば、携帯のアドレス帳が1件増えたこと、財前への呼び方が光になったこと。
それから私と財前の関係。
私達の恋人という関係はもちろん表向きにすることにした。
表向きにしなきゃ意味がない。
財前の女避けという目的を果たせない。
朝登校した時にはもう噂は広まっていた。
テニス部のパワーと噂話が好きな女の子のパワーが二乗されて光のスピードで伝わったのだろう。
財前からしたら都合のいいことだろうけど私からしたらいいとばっちりだ。
やっぱりこの話引き受けなければよかったかもと思い、軽くため息をつくと前方からすごい勢いで女の子の集団が走ってきた。
「ちょおっ!山下さん!財前君と付き合っとるって本間?」
『え…うん。本当だけど』
「何で?何でなん?いつから?どういうきっかけ!?」
『昨日から。きっかけは財ぜ……じゃなくて光から告白されたから』
女の子の質問に一つ一つ答えていく。
正直言って面倒臭い。
疲れた…早く教室に行かせてよ。
恐らく顔にかなり疲労の色が出ている私に目の前の子達は気付いていない。
どうでもいいけど、誰か助けて…。
「お前ら人の彼女囲んで何しよるん?」
「財前君!」
声のした方に振り向くとそこには面倒臭そうに立っている財前がいた。
救世主登場かと思ったらこいつかよ。
まぁいい、助けてくれたことには感謝する。
目で財前に助けてと合図を送る。
果たして財前にそれが通じるかは謎だけど。
「どうでもええけど、お前らはよどっか行けや。邪魔やねん」
まさかのアイコンタクトが通じたのか財前は女の子達に注意してくれた。
女の子達は財前の睨みにビビったのか直ぐさまその場を後にした。
『財前ありがとう。助かった』
「…光」
『あぁ…ごめん。光ありがとう』
私が光って呼ぶだけでそっぽを向いて頬を掻く財前が妙に可愛かった。
「視聴覚室行くで」
ふと思い付いたように提案した財前の手が私の肩に触れる。
私の肩が大きく跳ねる。
気持ち悪い…気持ち悪い。
別に財前に問題がある訳じゃない。
ただ肩に乗せられた男の手が気持ち悪い。
呼吸が荒くなる。
上手く息ができない。
自分が今この場に立っている感覚すらない。
「莉奈!しっかりしいや!」
財前の声で我に返る。
汗が止まらない。体中がべとべとする。
「…症状がこんなに酷いとは思わんやった」
『いつもはもっと酷いけど…今回はマシな方だったかな。光、ごめんね』
「…別に」
財前が私の頭に乗せようとした手を瞬時に引っ込めた。
申し訳なさそうな顔をする財前にこっちが申し訳ない気持ちになる。
『多分徐々に馴れていくからそんなに気使わないで』
「おー」
言った言葉は気休めでもなんでもない。
本気で思った言葉を口にした。
だけど私の頭の中では、やけに悲しそうな顔をする財前が妙にはっきりと残っていた。
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