歪んだリップノイズ
□case.3
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彼氏と食事をしてる時に不意に携帯のバイブが鳴りだした。
最初はメールかと思い気付かないフリをしてたが、一向に鳴り止む気配がないので電話かと感づく。
一向に携帯を触る気配がない私に痺れを切らしたのか彼氏は口を開いた。
「携帯鳴ってるよ」
『ああ、ごめん。出てもいい?』
「どうぞ」
ニコリと笑って電話を促す彼の姿は、我が彼氏ながらなかなかいい男だ。
年下のこんな糞ビッチと付き合うより、もっといい女いるだろうに。
そんなことをふと思いながらディスプレイを確認して、通話ボタンを押す。
『もしもし?どうした?』
「あ、亜梨紗先輩!今から俺の家来ません?」
『あなたのお家に行くメリットを教えて。こんな時間に外に出たら危ないじゃない』
「メリットとかそんな難しく考えなくていいっスよ!ただ、俺が亜梨紗先輩といたいだけっス。それに、亜梨紗先輩の家まで迎えに行きます」
彼はここ何年かで英語力が少しでも進歩したらしい。
メリットの意味が分かったことに私は少し驚き、少し笑う。
こういう素直なとこが彼の最大の魅力なんだろう。
『早く来てね。待ってるわ』
そうして電話を切り、彼氏に向かい合う。
「何だって?」
『後輩が相談があるらしくて、今から会えないか?って』
「………そう。じゃあ、俺達もそろそろ出ようか」
『ええ』
少し微笑んで頷いたのを確認して、彼氏は立ち上がる。
会計をサッと済ましてくれ、自然に私の手を握り歩き出す。
そして、彼氏の車に乗り込み私の家まで送ってもらう。
自宅の前まで着いて、彼がまだいないことを確認して、車から降りようとする。
すると彼に腕を軽く掴まれ、動きを止められる。
「俺との時間を中断してまで、その男に会わなきゃいけないのか?」
『……男じゃないよ。それに後輩の相談くらい乗ってあげなきゃ可哀想じゃない』
男だと勘付かれていたことに私は一瞬だけ目を見開いたが、直ぐに笑顔を取り繕う。
嘘で塗り固めるのはもう馴れた。
私は嘘の産物かもしれないと心中で嘲笑う。
捕まれた腕を振り払い、彼の頬にキスをして車を降りる。
彼の車の出発を見送り、家には入らず彼の到着を待つ。
それから5分程して、彼は原付で現れた。
16になったと同時に免許を取ったのだと、自慢気に話していた1年前のことをふと思い出す。
『遅かったわね、赤也』
「すいません!待ったっスか?」
『待ってないから大丈夫』
私の言葉に慌てる赤也が可愛くて、思わずクスリと笑う。
すると赤也はあからさまに安堵の表情を浮かべ、私の好きな笑顔で笑った。
「じゃあ乗ってください」
『うん』
私はいつも通り赤也の後ろに乗り、腕をギュッと彼の腰に巻き付ける。
すると途端に顔が真っ赤になる赤也。
この体勢になると私の胸が当たるのは分かっている。
いい加減馴れてほしいものだ。
相変わらず初なんだから。
でも、赤也は変わらないでいてほしい。
「亜梨紗先輩?どうしたんスか?」
『何もないよ』
そう。
貴方だけは変わらないで。
これは私の勝手な願い。
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