歪んだリップノイズ

□case.6
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朝目が覚めると隣にあるはずの温もりはなかった。
慌てて起き上がり、周囲を見渡すが景ちゃんは居ない。


枕元にあった携帯を確認すると、景ちゃんからメールが来ていた。


ああ、そうか部活か。


納得すると同時に少しだけ寂しくなった。
私本当に景ちゃん絡むと弱いな。


景ちゃん以外にも色々メールが来てたが、私が目に付いたメールは1件だけだった。


待ち合わせ時間と場所だけを指定してメールを送り、私はシャワーを浴びる準備を始めた。






待ち合わせ場所に到着すると時間前にも関わらず彼はもうその場で待っていた。


『侑君』

「おお、早かったんやな」

『侑君こそ早かったのね。というより部活は?景ちゃんは部活だって朝出て行ったけど』

「部活より亜梨紗と一緒おりたかったんやで?それより跡部の家泊まったんか?」

『私真面目に部活しない人嫌い』


私の言葉に若干不機嫌気味だった侑君の顔が更に歪む。


てか景ちゃんの家泊まったくらいで嫉妬すんなよ。
前に私が言った言葉覚えてないのかな。


ここで立ち止まったまま言い争いするのも何か妙に感じて、私は侑君の手を取って歩き出す。


侑君は少し驚いた顔をしていたが、私の手を痛いほどにグッと握りしめていた。
握り返してくれるのはいいけど、痛すぎるんだけど。


「それより亜梨紗いつまで跡部の前で猫被り続けるん?何でアイツもインサイトで気付けへんのやろ」

『猫被ってなんかない』

「俺らの前と跡部の前じゃ態度ちゃいすぎるで?」

『景ちゃんの前ではあれが素の性格なの。意識しなくても出るの。だからインサイトで見破けるはずないわよ』


侑君の言葉に溜め息をつきつつ返事を返す。
侑君は納得したのかしてないのかよく分からない表情で笑っていた。


『どこ行くの?』

「決めてへん」

『呼び出したのにノープランってどういう事よ』

「どっか行きたい所あるん?」


侑君はいつもそうだ。
自分の意志は二の次で私の意見をいつも尊重する。


大人ぶってるつもりなんだろうが、私はそんな侑君の言動がちょっと気に入らなかった。


『映画行きたい』


私の言葉に侑君は笑って頷く。


でも私はこの笑顔が見たいから侑君には何も言わず自ら提案する。
だけどきっと侑君は気付いてる。


私がいつも侑君が好きそうな場所を提案していることを。







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