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□気に入らない
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「それじゃぁ隊長。失礼します。」
「待ってサクラ。もう暗いから送って行くよ。」

ヤマトはそう言ってサクラの前に出た。
サクラは、それじゃぁと言って後に続く。
アカデミーの教室から二人の影が伸びる。
サクラは、今日1日ヤマトの仕事を手伝った。忍務報告書の整理。
事務能力が高いサクラは、ヤマトにしてみれば優秀な助手だった。
サクラも、いつも隊長として世話になっているヤマトの頼みだったので、
快く手伝いを引き受けたのだった。

二人は、アカデミーを抜けて、夜道を歩いた。

「こんな時間まで悪かったね。でも助かったよ。」
「いいえ。ヤマト隊長のお役に立ててよかったです。」

サクラはヤマトの方を向いてニッコリと笑った。
その笑顔に、ヤマトの心は揺れに揺れていた。

(かわいいな・・・。)

ヤマトはサクラをチラリと見る。
よく整ったスレンダーな体形。
忍としてのセンス、頭の良さ。
そして何よりもこのかわいらしさ。
無意識に愛嬌を振りまくから、男を「狙っている」ような嫌らしさもない。

「隊長、どうしたんですか?黙っちゃって。」
「え?・・・ああ、うん。」

ヤマトはしどろもどろに答えた。
まさか「君のことを考えていた」なんて言える訳がない。

ヤマトは、自分の気持ちに気づいていた。
サクラのことが好きなのだ。
おそらく初めて会ったときから。
少女のような可憐な心と、大人の強い心を併せ持つサクラに恋をしているのだ、と。

「ねぇサクラ。」
「はい?」

サクラは桃色の髪の毛を夜風になびかせながらヤマトの方を見る。


「サクラは彼氏いるの?」
「・・・え?」

いきなりの質問に、サクラは戸惑った。

(なぜ、このタイミングで??)

サクラはいろいろ考えながら、ヤマトの次の言葉を待つことにした。

「いや、どうなのかなと思って。」

ヤマトも、サクラの方を向いた。
その漆黒の目を見てサクラは悟る。
ヤマトが真剣にこの質問をしていることを。

「います。」

だから真剣に答えた。
自分には心に決めている人がいることを伝えた。

「・・・そうなんだ。」

言葉ではそう言ったものの、ヤマトの心の中には嫉妬心が生まれていた。
「います」と一言言ったとき、サクラはとても満ち足りているような表情をしたのだ。
無性に悔しい。
自分だってサクラが欲しいのだ。
自分が、サクラを幸せにしたい。自分の手で。
・・・奪ってしまおうか。
ヤマトの心の中で小さな誘惑が蠢いた。

「・・・サクラ。」

ヤマトはサクラの手を取る。
そして体を向き合わせるようにサクラの手を引いた。

「た、隊長・・・あの・・・。」

サクラは動揺した。
こんなことをしてはいけない。
その「彼氏」がもしこんなところを見たら・・・。

「隊長!危ないから離して。」
「え?」

次の瞬間、首の辺りに凄まじい殺気を感じて、ヤマトはサクラの手を離した。

ザシュッ!!

「隊長!!」

サクラの大声が夜空に溶けた。
一瞬目をつぶり、恐る恐る目を開けると、そこには木の人形が転がっていた。
人形の首にはクナイが無数に刺さっている。

「んー、間一髪逃げられたか。」

予想通りの声がした。
サクラはゆっくりと声の主の方を見る。
カカシだった。

「サークーラッ。こんな夜道を男と二人で歩くから襲われるんだよ?」

ニコッと笑うその笑顔に、激しい怒りを感じる。
これは強い嫉妬だ。サクラはたじろいだ。

「・・・彼氏って先輩のことだったんですか。」

暗闇からヤマトがむくりと起き上がった。
殺気を感じた瞬間、印を組み、木分身を出現させたのである。

「これはこれはヤマト。わざわざ俺のサクラを送ってくれてありがと。でも理性はしっかり保ってくれよ。」

カカシはヤマトの方を全く見ずにそう言い放った。
顔を見れば殺したくなるから。
しかしヤマトは今、サクラやナルトの班の隊長だ。殺す訳にはいかない。

「「先輩」の?」

ヤマトは悔しさを押し殺したような声で言った。

「そうだよ。よいしょっ。」

カカシはサクラを抱きかかえた。

「っ!先生!!」

サクラは脚をバタバタさせながら抵抗した。
しかしカカシに離す気がないと察すると、すぐに止めた。

「誰にも渡す気ないから。」

じゃ、と短く言うと、カカシは瞬身の術を切った。

「・・・。」

術の後に立ち込める煙を見ながら、ヤマトは唇を噛んだ。
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