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□夢浮橋
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いらっしゃいませー!

甲高い声が響く店内。醤油の染みたメニュー表に、タバコのせいで黄色くなっている壁。
庶民派という言葉がピッタリの居酒屋だ。

「はい、生2つ。」

威勢のいい若い男の店員が、カカシとアスマの前に生ビールを差し出した。
二人はそれを手にとると、コツンと小さく乾杯を交わす。

「カカシと飲みに来るなんざ、久しぶりだな。」
「そうだね。」

一気にビールを飲み干すと、アスマの喉がゴクッと鳴った。
ジョッキを置き、右手の薬指の指輪を擦った。アスマの癖である。

「紅とは最近どう?」
「ん、まぁ普通だな。」

2人はもうすぐ結婚する。指輪が左手の薬指にはめられる日も近い。

「お前は。」
「ん。」
「サクラは?」

アスマがクツクツと笑う。カカシとサクラが付き合いだしたのはごく最近の話である。付き合って3年になるアスマと紅とは対照的だ。
付き合いたてのカップルをからかうことほど、楽しいことはない。
アスマは話を続けた。

「まさかお前がサクラと付き合うとはなー。」
「え?」

カカシもグイッとビールを飲み干した。
疲れているからか、酒がすぐに回る。

「女はただの性欲処理とか言ってたようなお前がよ、あんな真っ直ぐな子どもと付き合うなんて。」

アスマはそう言うと、タバコに火を点けた。
ライターを使う前に、また一度指輪を触る。

「サクラは子どもじゃないよ。俺よりよっぽど大人。」
「ほう。」

カカシは、サクラの顔をぼんやりと思い浮べた。
そう。付き合うまでは子ども子どもと思っていた。
だから始め、サクラがカカシに告白したとき、どうせ憧れの延長だろうと思った。

「だって俺みたいな大人の男を落としちゃうような子だよ?」

カカシは、サクラを一度振った。「生徒に手は出せないよ」と。
しかしサクラは諦めなかった。健気に、カカシに思いを抱き続けた。
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