―――バレンタインから一月。
本命、義理チョコ、友チョコ…等々。気持ちに種類はあれど貰ったからには返さなければ後が怖い。
そんな某イベントが目前まで迫ってきた深夜、何故か学校の家庭科室で苦悩する獄寺の姿があった。
「………何故だ」
天板にのる物体Xを見つめ、獄寺は呟いた。
本に書いてあった通りの材料を揃え、作り方も一応ほぼ、その通りに作ったはずだったのに…。
「何故、上手く焼けないんだ?」
やはり火力が問題なのだろうか?
あまり焼きすぎると固くなると十代目のお母様に助言をして頂き、自分なりに様々なアレンジを加えてみたのだが。
「そうだな、今度はもう少しもう少し火薬の量を抑えて―――」
「や、それ以前の問題だと思うぞ」
どこからともなくダイナマイトを取り出した獄寺に、これまた同じく何故かその傍らいた山本が突っ込んだ。
「花火でさすがにクッキーは焼けないと思うぞ」
オーブンを使え、オーブンを。
すでに焦げたという範囲を超え、炭化してしまった成れの果ては山積みとなっていた。
しばらく静観していた山本だったが、さすがにこれ以は上黙って見ていられず口を開く。
「大体、何で天板にのっけてんのにオーブンで焼かないんだよ?」
山本の問いに獄寺はだってよ…と、彼にしては珍しくばつの悪そうに口の中で言葉を咀嚼する。
「コレの方が慣れてるしよ、せっかくだからオレ的にアレンジを」
「アレンジしまくって、こんだけ失敗したんだから少しは懲りろよ」
「うっ…」
失敗品を横目に苦笑混じに言われ、獄寺は言い返せず言葉に詰まってしまう。
ホワイトデーを明日に控えお返しをどうしようか迷った末、手作りには手作りをと決めた獄寺はお菓子づくりの環境の整った家庭科室を一晩借りたが、これでは確かにいつまでたっても成功しそうになかった。
「う〜ん。クッキーなら大丈夫だと思ったんだけどな」
思い立ってすぐに色んなお菓子づくりに挑戦したものの、こんな感じでことごとく失敗。クッキーは最終的にたどり着いたお題目だった。
「だから、根本的な部分で間違ってるって」
それでも諦めないといった表情で首を捻る獄寺に、山本が自分が作ったクッキーを取り出して見せた。
「ほら、オーブンで焼けば少なくても原型は保てるんだから」
「ああっ、テメェいつの間に!?」
「お前にいきなり連れてこられて暇だったからな、俺も作ってみた」
オールマイティーな男、山本武。ここでも本領を発揮しております。
「クッソォ〜〜〜」
微妙な敗北感に獄寺は憤る。
「…何かますますオーブンを使いたくなくなってきた」
「そんな事言ったらお菓子なんていつまでたっても出来ないぞ」
「うっせーな、ああ、もう、とにかくクッキーはヤメだヤメッ」
そう言うと獄寺は使っていた調理器具を放り出し、考え始めた。
本に載ってるようなお菓子は一通り試した。後、オーブンを使わずに済むお菓子と言えば………。
「うーーーん………」
獄寺は数時間唸り続けた。
ホワイトデー当日。
「おはようございます、十代目」
「あ、獄寺くんおはよ―」
「これ、良かったら受け取ってください!!」
朝一で沢田家にやってきた獄寺は、ツナが玄関から出るや否や小さな紙袋を手渡した。
その姿はどこか煤け、よれよれである。
「?これって…」
「じ、じゃあオレ、朝のラジオ体操がありますんで」
ツナが紙袋の中身を確認する前に、獄寺はかなりわざとらしいモーションをかまし立ち去ってしまった。
「?」
それを怪訝に見送ったツナはガサガサと紙袋をの口を開けた。
「………ポン菓子?」
妙に軽いと思ったら、中から出てきたのは米を爆発の衝撃で弾けさせたお菓子だった。
もしかして、これって手作りなんだろうか?ツナはポン菓子の入った袋をまじまじと見つめる。
「あれ?」
すると、白い粒々の中に紛れて別なものが入っているのに気がついた。
何だろうとそれを手にとったツナに思わず笑みが溢れた。
これも手作りなんだろうか?思えば更に笑みは深くなる。
少し形の崩れたハートのチョコレートを目にし、ツナは朝から何とも言えない幸せな気分を獄寺から貰ったのであった。
どこぞのギフトショップのCMのような題名ですいませんm(__)m
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