「お疲れ〜っす」
休憩室兼食堂にやって来たルルーシュを見つけた、リヴァルは大きく手を振った。
周囲は役者とスタッフ何人かの雑談や打ち合わせでざわついていたが、所在なさげに辺りを見回していたルルーシュはその声に気づきリヴァルを見つけるとほっとした表情を見せた。
「お疲れ様です」
他の役者に通りすぎる際挨拶を交わし、乱雑に置かれた椅子とテーブルをかきわけて、リヴァルのもとやって来たルルーシュは近くの空いてる席を確認し、そこに腰を落ち着けた。
「撮り終わったの?」
「…はい、何とか」
はにかみながらルルーシュは答える。
「もう御大の迫力に気圧されちゃって、大変でしたよ」
「あ〜、あの貫禄を前にしたらな、無理もない。オレは直接の絡みはないからいいけどさ、お前は渡り合わなきゃならないもんな」
肩を叩かれ、ルルーシュは苦く笑う。
「で、陛下は?」
「他の番組の収録があるからって、そっちに行きました」
「また、あの格好のままで?」
「……多分」
「シャルルさんだから許される事だよな」
リヴァルは呆れと感心半々と言った口調で半眼した。
どうも、今回の衣装がいたく気に入った大御所は他のバラエティー番組に出演する際も、番宣と称して着替えないで出ているのだ。
「同じ局ならいいけどさ、他局のディレクター陣にオレは同情するよ」
「ははは…。あ、俺食事まだなんでとってきます。リヴァルさん何かいります?」
「じゃあお言葉に甘えて緑茶」
了解と呟き、立ち上がりルルーシュは食券の販売機に向かった。

数分後。

「…ルル。思うんだがその態度どうにかならないのか?」
トレイを手に戻ってきたルルーシュを待っていたリヴァルは開口一番に言った。
「役が役だから余計に気になるかもしれないんだけど、お前の口調何か固いんだよ」
「そんな事言われても…」
割り箸を割りつつ、ルルーシュは困ってしまう。
「オレ、皆さんと比べたら全然新人みたいなもんですし」
「主役がそれでどうすんだよ。まあ、そのギャップが良いって女性陣には言われてるもんな。…もしかして、誰か落とすための計算だったりする?」
「まさか」
疑いの眼差しにルルーシュは手と首の両方を振って否定した。
念のため目の端で女性の出演者が集まっている一角を窺ってみるが、何か話し込んでいるようでこちらに顔を向けるものは誰もいないようだった。
ルルーシュはほっと胸を撫で下ろす。
「もう、変なこと言わないでくださいよ!」
「悪い悪い」
何とはなしに声を潜めルルーシュが抗議するも、リヴァルの謝罪に反省の色はない。
役柄と同じく、気さくで親しみやすいのは有り難いが、こういう所はいかんせんし難い。
こういう噂は職業柄から付き物だと思うが、根掘り葉掘り詮索され記事にされたりしたらたまったもんじゃない。
ルルーシュは深々と息を吐き出す。
「…それはそうとさっきからあそこ、何話してるんですかね?随分熱心みたいだけど」
話題の転換をしたくて、ルルーシュはとりあえず手近にある疑問を口にした。
目線だけで先ほど窺った場所をさせば、リヴァルがああと、何とも言えない表情になった。
「首突っ込まない方が身のためだぞ」
「何故?」
ルルーシュが怪訝に問う。
「下手に詮索して巻き込まれたら、それこそ厄介だぞ」
「…したんですね」
その一言にリヴァルはうっと呻いた。
だから彼は自分が来るまで、一人でいたのだろう。
ルルーシュは図星をさされ狼狽えるリヴァルに、肩をすくめて苦笑をこぼした。
「いいか、ルルーシュ。女性というのは敵に回したらそりゃあ恐ろしいものなんだぞ」
「はいはい」
「はい、は一つ!」
何とかして威厳(?)を取り戻したいのだろうが、何か言えば言うほど墓穴を掘っているとしか思えない。
ルルーシュにはそれが可笑しくて、本人を前に面に出さないでいるのが精一杯である。
「あ、おい。何肩震わせてんだよお前!?そもそも、女性の扱いはオレより―――」
言いかけて、リヴァルはそこで改めて気づいたと言わんばかりに動きを止めた。
「なあ、相方は?」
「え?スザクですか?」
相方ってお笑い芸人じゃないんだから。ルルーシュは内心思ったが、頷くリヴァルを前に相方と言われその名が出る自分も自分かと思い直してあえてそこに突っ込まなかった。
「スザクは汗を流してから来るって、先にシャワーに行きましたけど」
「そうか。体はる役どころは大変だからなぁ〜。って、ルルちゃんよ、枢木っちは呼び捨てなのかい?」
聞き流しかけて、リヴァルがそこに引っ掛かる。
人間、変なところに神経が回ったりするから厄介だ。
「だって、こうしているオレでさえさん付けなのに、何か不公平っぽくね?」
不服を訴えるリヴァルに、ルルーシュは何と説明していいやら困り果てる。
「え〜っとですね…。脅迫されたんですよ、スザクに」
「脅迫?そりゃまた物騒な…」
「そんな思っているような事じゃありませんよ、ただ名前を呼ばなきゃ返事をしないって言われて、まあ、仕方なく」
小学生レベルの脅しだったが、それで今後の撮影に差し支えるのも嫌なので、渋々承諾したのだ。
あの人も一度言ったら本当に実行する人だからなと、ルルーシュは言外に溜め息を吐く。
「じゃあ、オレもそれでいこうかな」
「ええっ!?」
「今度から呼び捨てにしなきゃ返事をしないって事で」
「そ、それは―――」
どこまで本気か解らないリヴァルの言動に、ルルーシュが対応に迷っているちょうどその時、何の前触れもなく二人の座っている間からにゅっと顔が出てきた。
「!?」
「二番煎じは流行らないわよ」
「げ、カレン!!」
「『げ、』とは何よ。だから君は三枚目だっつーの。ねぇ、ルルーシュ〜」
「あ、え、その〜…」
「あのね、今みんなと話をしてたんだけど―――」
急に話を振られ戸惑うルルーシュに構うことなく、カレンは話ながら後方に視線を向ける。
それにつられ見れば、話し込んでいたはずの一角が興味津々にこちらを見てる目とかちあった。
い、いつの間に…。
ルルーシュは驚きよりも本能的に嫌な予感を覚え、この場から逃げ出したい衝動にかられた。
しかし、残念ながら彼は逃げられるほどの要領を持ち合わせていなかった。
「あのね、あたしを含めて今回のヒロインって誰だと思う?」
「ひ、ヒロイン?え〜っと〜、CCさんじゃないんですか…?」
恐る恐るルルーシュが答えれば、カレンはそうじゃなくてと苛ついた態度を見せた。
「CCの他によ」
言っている意味が解らず小首を傾げるルルーシュにカレンは更に口を開く。
「だから、みんなで話してたのよ。CCを抜かしたら誰がヒロインの位置なのかなって」
「はあ……」
「何よ、その気の抜けた返事は。まあ、いいわ。でね、それに関して主人公であるあなたの意見を聞きたいのよ」
「ええっ!?」
リヴァルの言っていたのはこれだったのか。
ルルーシュは瞬時にそう理解したが、これは首を突っ込まなくても、向こうから突っ込んで来たんだからどうしようもない。
「ちょっと待てよ。いきなりそんな話を振られたってルルーシュが困るだけだろうが。大体、それだって二番煎じみたいなもんだろ」
見かねたリヴァルが何とかしてルルーシュを助けようと、カレンに食い下がる。
頑張れリヴァル!!
ルルーシュは密かに応援する。
だが、忘れていたが女性を敵に回すと恐ろしいと言っていたのも彼だった。
「黙りなさい、博愛主義者が。皆がヒロインだ?何よ、その一昔前のタラシが使い回しまくったセリフは。寒すぎて凍死しそうだわ」
リヴァル撃沈。
沈み行く彼に、ルルーシュは内心手を合わせた。
「ね?ルルは誰だと思う?」
カレンに期待に満ちた眼差しで再度問われ、ルルーシュは今度こそ崖っぷちに立たされた。
もう、援護射撃も期待できない。かと言って下手なことを言ったら、リヴァルの二の舞は確実だ。
この際神でも悪魔でもいい、とにかく誰でもいいから助けて欲しい―――。
ルルーシュは心の底から願った。

「あれ、皆どうしたの?楽しい事なら僕も混ぜてよ」

「スザクっ!」
救世主の登場に、ルルーシュはすがる気持ちでその名を呼んだ。
「ルルーシュ、それ今日の日替りランチ?僕もそれにしよっかな」
やって来たスザクはまず特に何を気にした風でもなく、肩越しにルルーシュの食事メニューを覗きこんだ。
その瞬間、ルルーシュの鼻先をシャンプーの甘い香りがくすぐる。
「スザク、シャンプー変えた?」
「解る?」
ルルーシュが聞けばスザクは嬉しそうに微笑んだ。
「スタイリストさんが教えてくれたんだけど、結構いいよ。ルルーシュも使う?」
「考えとく」
…何だその女子高生のノリは。
会話を聞いていた誰もがそう思ったが、当人たちがあまりにも自然なので突っ込む隙がない。
「そんで、何話してたの?」
ルルーシュと話をしていたスザクが、ふいにカレンの方に顔を向けた。
油断していたカレンは一瞬間の抜けた表情をしてしまい、咳払いで誤魔化してざっと話始めた―――。
「何だ、そんな事か」
事も何気にスザクは言った。
「そんなの決まってるよ」
良かったー…。
その言葉にルルーシュは肩の荷が下りた。
スザクならリヴァルと違い反感を買わずに受け流してくれるに違いない。後は自分もそれに適当にあわせればいい。
セコい考えかもしれないが、現状ではそれが一番の良策だ。
安心したせいか、急に喉の乾きを覚えたルルーシュは持ってきていた冷茶を口に含み―――、
「ヒロインはルルーシュでしょ」
ブーーーーーーーッ!!
盛大に吹いた。
「僕としてはCCよりよっぽど相応しいとおもうけどね」
平然と言ってのけるスザクに、何処からか黄色い声が聞こえた気がしたが、ルルーシュにはそれを確かめる勇気はなかった。
何か言いたいが、吹いた反動でむせかえり言葉にならない。
「…お〜い。大丈夫か〜?」
その背中をいつの間にか復活したリヴァルがさすってくれる。
「な、何とか」
「あれはわざと、だよな?」
「だと思いますが…」
いや、そうだと思いたい。
確かにこれで女性陣を敵にまわすことはなくたったが、これはこれで後々まで面倒くさくなった気がする…。
憐憫の視線を向けられ、ルルーシュは泣きたい気持ちを堪えるのが精一杯だった。










ルルーシュが書いてて楽しかったです。

とある撮影所の風景

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