□僕を食らった時計
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Prologue

 時計が真夜中を指した。
 ダンッ――――
 銃声が闇夜に響き渡り、空気を一瞬だけ振るわせた。
 雪の上に、女が倒れる。まとっていた服が瞬く間に赤く染まり、白銀の雪もまた女の周りだけが赤くなっていった。
 その様子はむしろ、神秘的。
 
 ――目を女から離し横を見ると、そこには銃を持ち震える男がいた。銃口からは一筋の煙が今まさに消え入ろうとしていた。
 「あぁ、ああ・・やはりこうなってしまった・・」
 男は笑っていた。狂ったように口の端をつり上げて。でも男は、笑い声を上げなかった。
 男の横顔を見つめていると、男は突然自分の名を呼んで正面に立った。
 「これを受け取れ! そして俺を殺せ! ……この時計は、周りの人間を皆食う! 俺はお前を殺したくない。だから、やれ。やってくれ」
 「いいよ」
 絶望すらも超えた男の前に平然と立つ自分の姿は、不自然に見えるのだろう。――もしここに他の人がいたならば。
 男から懐中時計を手渡された。
 「これが『レアフの時計』か」
 冷静極まりない声が出た。自分でも不思議だった。
 「早く殺してくれ」
 次に受け取ったのは、先ほど男が女を殺した銃だった。
 操作は容易かった。

 時計が真夜中2分後を指した。
 ダンッ――――
 銃声が闇夜に響き渡り、空気を一瞬だけ振るわせた。
 雪の上に、男が倒れる。まとっていた服が瞬く間に赤く染まり、白銀の雪もまた男の周りだけが赤くなっていった。
 その様子はやはり、神秘的。

 「結局、独りになったな」
 銃声が止んでしばらくしたあと、冷静に言った。
 ふっ――
 何故か笑みがこぼれた。


 この日、僕は『時計』を手にした。
 人を喰らい、人を超越した存在になる可能性を秘めた『時計』を。
 

 

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