【夢語り】
□黒服のかまいたち 第八章〜歴史が紡ぐ夢を導に〜
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時が、止まる。
告げられた真実に、心が凍りついた。その瞳が宿す輝きが、嘘であって欲しいという願いを打ち砕く。
「そんな…」
声が震える。視界が滲み、溢れ出した涙が頬を伝った。
胸中を荒れ狂う激情。叫びだしそうになる心とは裏腹に、凍りついた喉は言葉を音として紡ぎ出さない。
「そんなの…」
嘘じゃないよ、と。それが真実であると頭ではわかっていながらも尚否定しようと足掻く自分の言葉を、平淡な声が遮った。
涙目で睨み付ければ、哀しげな微笑が返される。
拳を握り締め、じゃらりと鳴った耳障りな音に思わず眉を寄せる。自らの手首を拘束する枷の重みが、今になって煩わしくなってきた。
重みを増した枷。きっとそれは、突きつけられた事実に悲鳴を上げる心の軋み。
信じられない――――…信じたくない。信じたくない。
だって…。
「あたし達は…まだ、出会ったばかりなのよ…?」
縮まらない距離。決して手の届かないと思っていたその背が、やっと優しくなったのに。その先に残された多くの時間を共有する中で、少しずつ、その溝を埋めていけばいい、と。
全ては、出逢った時から決まっていたというのか。
この手から大切なものを奪うのは、宿命という名の理。覆すことなど赦されない、絶対不可侵にして残酷な天の采配。
「そんな事…ッ」
運命は、選び取るもの。進むべき道は、自らの意思で決める。
だから。
「…あたしは、絶対に認めない」
目の前に立つ相手を挑むように睨み付け、言葉をぶつける。
「仁(じん)の命が…残り僅かだなんて…。絶対に…絶対に認めない!」
何処か縋るような声が室内に反響する。
睨み付けたその先で浮かべられた微笑みが、どうしようもなく切なくて、哀しくて。
絶望の最果てに待つ諦観を、垣間見た気がした。
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