【夢語り】

□外伝 『繋ぐ想い 蒼穹の彼方』
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 天が流す涙が、地との邂逅を果たして音楽を奏でる。地面を叩く単調な音は世界を埋め尽くし、まだ冬の寒さを残した雨は人々の家路へと向かう足を急がせるだろう。
 雨の日は世界が静かになる。地上の生き物達は活動を潜め、静止する世界にはただ、天の泣き声だけが響き渡るのだ。
 軽く右手を掲げれば、既にずぶ濡れになっている掌を新たな雫が叩く。その冷たさを感じられなくなる程、もう長いこと、この場に立ち尽くしていた。
 見上げた先には、冷たい弥生の雨に打たれながらも花弁を広げる緋桜がある。鎮魂を担うその木は枝を広げ、咲き誇る緋色の華は雨にけぶる視界にも鮮明に映った。
 微かに動いた唇が、音にならない言葉を紡ぐ。
 誰の為に泣くのか、と。
「・・・・・・・・・」
 問いが音とならない以前に、そもそも、問うべき相手がいないのだ。当然、応えなどあるはずがない。
 緩やかに首を振れば、動きに合わせて濡れた銀髪が揺れる。頬に張り付いた髪を耳に掛け、咲き誇る緋桜に背を向けかけた時だ。
 静寂の世界が一瞬、変容する。
 歩きかけた足を止めて、背後を顧みる。雨に満たされた視界に、何かが落ちてきた。ぼとっという効果音がこれ程似合う落ち方もそうないだろうと思える程、それは見事なものだった。
「うう…」
 落ち方が悪かったのか、打ち付けた頭を抱えて上半身を起こすその姿に微かに碧の双眸が細められる。
 見たこともない服を着たそれは、これまた奇妙な姿をしていた。立ち上がり、服についた汚れを気にしている子供の背丈ほどあるそれは、明らかに、人の成りをしていなかった。それは、何処からどう見ても…。
「…うさぎ?」

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