合わせ鏡

□勇者は旅立つ
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「相変わらずこの町は賑やかだな。」

ザイは、5年ほど前に一度だけ来たことのあるイシュトラの町を見渡し、にっこりと微笑んだ。



「なぁ、あんたはこの町にはよく来たことが…」

声をかけた相手はその場所にはいなかった。



「あ…あれっ?どこ行ったんだ?
リシャール、どこだぁ〜?!」

あたりをきょろきょろと見まわすと、遥か後方に立って歩く亀のようなリシャールの姿が小さく見えた。



「何やってんだ、あいつ…まだあんな所で…
ま、良いか、今夜この町に泊まることは言ってあるんだし、宿屋で落ち合えば良いよな。
あぁ、腹減った…何か食うかな。」

ザイは、リシャールを置いて町の中へ入って行った。







(あぁ…目がかすむ…
足が痛い…
馬車ならすぐのこの町が、本当はこんなに遠かったなんて…
一体、何時間歩いたことか…
……しかし、これもすべてはヴェーラ様のお与えになった試練…
私を素晴らしき勇者にするための試練なのですね。
ありがとうございます、ヴェーラ様…
ですが、私の命はもはやここまでかもしれません…
あぁ、口惜しや…
志半ばにして、こんな場所で倒れてしまうとは…
父上、母上…先立つ不幸をお許し下さい…)



「ヴェ…ヴェーラ…さ…ま…」

リシャールは片手を天に向かって力なく差し伸べたまま、その場にばったりと倒れこんだ。




「あれ?あんな所で誰か倒れてるぞ。
行き倒れか?!」

「行ってみよう!」

後ろから来た二人組の旅人が、リシャールの姿に気付いた。



「おいっ、あんた、大丈夫か?」

「う…うぅ…」

「おい、見ろよ。
すっげぇ剣じゃないか。
宝石がびっしりはめこまれてるぜ!」

「身なりからして、金持ちの息子に違いない!」

赤毛の男は、そう言いながらリシャールの身体をまさぐった。




「おおっ!!こいつはすげぇ!」

男の手にはぎっしりの金貨で丸く膨らんだ皮袋が握られていた。
つい先程までリシャールの腰にぶらさがっていたものだ。



「み、、見ろよ!こっちにはこんなもんが…!」

黒髪の男は、リシャールの荷物の中から宝石の詰まった袋を取り出した。



「す、すげえ!これが本物だったら、俺達、一生遊んで暮らせるぜ!」

「イミテーションでもこれほど精巧なもんならそれなりの値がつく。
今日はツイてたな!よし、ズラかるぜ!」

「剣はどうする?
こいつもかなりのお宝みたいだぜ。」

「やめとけ、そいつはそこに紋章が入ってるだろ?
そういうもんは足がつきやすい。
これだけいただきゃあ十分だ!
さ、行くぜ!」

男達は、イシュトラの町へと駆け込んでいった。


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