合わせ鏡

□脱出
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「今度はこっちの坊やね…」

女王の妖艶な唇が、リシャールの唇に近付く…
リシャールは、その場に立ち尽し堅く目を閉じて女王のそれを待った。



(ユヒト殿だけを危険な目に遭わせておくわけにはいかない!
ユヒト殿!しなびる時は私も一緒ですぞ〜!!)



「ぎゃああああああーーーーーーっっ!!」

リシャールの思考をかき消すかのように、尋常ならない叫び声があたりに響き渡った。



「げぇ〜〜〜…こ、こ、こんな不細工の唇に……」

目を開けたリシャールが見たものは、女王が真っ青な顔で放心したように倒れこむ姿だった。
そのまん前で、アーロンがうっとりした顔で舌なめずりをしている。



「リシャールさん、今だ!」

「あ…わ、わかった!」

リシャールは、ザイを背中に背負い、女王の部屋を飛び出した。
アーサーが、その前で竜人達をなぎ倒し、血路を開く。



「こっちです!」

アーサーに導かれ、一行は、地下への階段を駆け下りて行った。
追っ手はすぐそこまで迫っている。



「ここから、どうするんだ?」

「早く、こっちへ!」

アーサーが一行を案内した場所は狭い洞窟のようになっており、その先には水路が続いていた。
一行は、そこに繋がれていた一艘の小舟に乗りこみ力強く漕ぎ出した。
竜人達の足音は、間違える事なく一行の後に続いていた。



「おい、こんなもんで逃げても奴らには翼があるんだぜ。
どうする気だ?」

「大丈夫です。
この水路は狭い。
ここでは翼を広げることが出来ないのです。
それに、竜人達は泳げませんから…ただ、上から飛んでこられたらどうしようもありません。
奴らが出直す前に出来るだけ遠くに逃げなければ…!」



死に物狂いで漕いだおかげで、なんとか竜人達にはみつからずに森の中に逃げ込むことが出来た。

しかし、ここは魔物達の巣窟ダイタル山脈。
安心してはいられない。
今のザイの体調では、瞬間移動の魔法を使う事は不可能だ。
なんとか自力でこの危険な山を切り抜けるしかなかった。


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