合わせ鏡

□ナルク村
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「おいっ!
あれじゃないか?
あのトゲトゲしたひょろ長い建物が神殿じゃないか?」

「……おまえなぁ…
トゲトゲしたひょろ長い建物なんてったら、値打ちもくそもないだろうが…」

丘の上から眼下を見下ろせば、そこに広がるのは極めてのどかな田園風景。
だが、その一角に、どう見ても周りの風景とは不釣合いな建物が佇んでいた。
異彩を放つその風貌は、人々が集まるのを拒むようにも見えるが、それとは裏腹に建物に続く細い道には蟻のように見える人々の列が途切れなく続いていた。



「お……おぉ…
あ、あれが……ティアト神殿……
な、なんと…神々しい……」

丘の斜面を登ることに全体力を費やしてしまったリシャールは、潤んだ瞳で神殿をみつめ、そのまま息絶えてしまいそうな荒い息遣いでそう呟き、がっくりと前のめりに倒れ込んだ。



「リシャール、後少しだ!
後少しで、あんたの大好きな神様に会えるんだ。
こんな所でくたばってる場合じゃないぜ!
さ、後一踏ん張りだ。」

リシャールの傍らにしゃがみこんだザイが、突っ伏したまま大きく肩で息をするリシャールに激励の声をかけた。



「そんなこと言ったって、この様子じゃ無理だって。
リシャールの体力でここまで一気に登れただけでもたいしたもんだぜ!
少し休んで行こう。
少しくらい休んだって、ナルクの村はもう見えてるんだ。
暗くなるまでには着けるだろ。
……リシャール、大丈夫か?何か飲むか?それとも何か食う?」

「あ…アーロンさん、ありがとうございます。
わ、私なら大丈夫です。
少し休めば…す、すぐに回復します。」

そう言って、リシャールは顔だけを起こし、虚ろな眼差しをアーロンに向けた。



「無理すんなって。
そうだ…!こんな時は冷たい水をぐいーっと飲めば元気が出る。
俺が汲んで来てやるよ。」

「アン。
水ならここにあるぞ。」

ザイは、不機嫌な顔で肩から下げていた水筒を差し出した。




「新鮮な水の方が元気が出るだろ!
俺、ちょっとそのあたりを見て来るから。」

アーロンは、そう叫びながら丘の向こう側へ走り出す。



「ほ…本当に申し訳ない…
アーロンさんには荷物まで持っていただいたのに…今度は水を汲みに行って下さった…
このご親切は、決して…決して忘れません……」

「そんなたいしたことかよ。
ま、普段のあいつにしたら親切だけどな。
そういや、あいつ、荷物は置いていきゃ良いのに…」

ザイは自分の発した言葉になにやら得体の知れぬ不吉な予感を感じ、不意に口をつぐんだ。



(……まさか…な…)

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