【恋文】

□黄昏時の神風
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 曰く。
 


 拓也が、交通事故で亡くなった。


 
 黄昏時の教室。橙色に染め上げられた空間に着信音を響かせた携帯電話から告げられたのは、恋人の突然の死であった。
 思考が停止する。周囲の音が遠くなり、視界から色が消え失せる。携帯電話が手から滑り落ちて音を立てたが、そんなものは耳に入ってはいなかった。凪紗の鼓膜に響いているのは、事実を告げた硬い友人の声だ。
 体から力が抜けて崩れるように床に膝をついた。誰かが肩を揺すってくる。誰かの声が頭上を通過していく。
 その後の記憶は曖昧だ。
 周りは何か騒がしかったような気がする。何度も呼びかけられたような気がする。でも、それはどれも確かな記憶ではない。
 ただ、ひとつだけ確かなのは。
彼の姿を捜して視線を彷徨わせた空は、黄昏時の橙色から夜の紺色へと姿を変えようとしていた。

     
               
 それが、夏。



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