Gift novel.01

□りんどう
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あぁ、ほら・・・・また


君はそうやって傷ついていくんだ







「ボンゴレ」



目の前で書類を処理する男を指すその名を読んだ

空気が震えて、波になって、音として彼に届く


パサリ、と紙を置く音
呼び掛けた筈の彼はこちらを見る気配もない



(無視・・・・、ですか)



骸はふっと息を吐きだし、
椅子に座ったまま書類から意識を離そうともしない
目の前のマフィアのボスをもう一度呼んだ



「ボンゴレ」



「・・・・・・・・」



無反応
さすがにこの反応は痛い


骸は眉を少ししかめ、
足音をわざとたてるように一歩一歩綱吉との距離を詰める

もともとそんなに離れていなかった距離は既に
少し手を伸ばせば触れられる程に近い


此処まで近づいても無反応
やはり少し不自然


骸は未だ書類から目を離さない綱吉に違和感を感じた

何処かおかしい


すっとその柔らかそうな髪に手を伸ばす
見た目どおり柔らかなソレが手に触れた瞬間

今までこちらを気にもとめていなかった彼が
ガバリと顔をあげ、琥珀色の瞳をいっぱいに見開き
こちらを見上げた



「・・・・骸」



驚いたように呟かれたその声に
驚いたのは寧ろこちらの方だ



「どうしたの、イキナリ」



「・・・・いえ」



「?、どうかした?」



「ボンゴレが、僕が部屋に入っても気付かなかったのは初めてだったので」



「あぁ、俺も誰かが入ってきて気付かなかったのは初めてだよ」



書類に集中してたみたいだ、と
呟いた彼の声は遠くに聞こえた



そうですか、と返事をした声も上ずっていたかもしれない

らしくもなく動揺していた


情けない。でも
だってそうだ
昔からあのアルコバレーノの指導を受けた彼が
他人の気配に気付かないなんて無い
普通はそんなことないのに



「悲しいんですか?」



ぽろりと自分の口から零れた言葉に
自分自身が納得した



「悲しいんですか?周りにも気を配れない程の考え事を?
・・・・貴方が?
そんなに辛かったんですか?裏切りが。」



気付いてしまえば後は溢れる様に
ボロボロと言葉がわいた



(だって貴方が気に病むことじゃない)


(だって貴方が傷つく様なことじゃない)


(だって貴方が悲しむことじゃない)



彼は僕の言葉に苦笑して
それまで握られたままだったペンを置いた

コトリと、小さい筈のその音は
静かな部屋にはよく響く


はっと息を詰めた僕に
彼は優しく笑って



「悲しむことを止めてしまったら
感情も無くしてしまう」



柔らかい笑顔のまま、強い意志を込めた瞳で
言い聞かせるかのように言った



(あぁ、君がそんなことを悲しむ人間じゃなければよかった)


(だったらさっさと君を裏切って)


(マフィアなんて止めて)



「君がそんな人間じゃなければ良かったのに
そうすれば僕は・・・・」



言葉が続かなくなった僕の頭を
彼が優しく撫でて笑った



「俺はそんな風に悲しんでくれる骸が好きだよ」



その言葉が胸にすとんと落ちて
普段は決して滲まない涙が
今にも溢れて落ちそうだった






りんどう
『悲しんでいる貴方を愛す』







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