Gift novel.01

□桜染
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ひらひらと舞う淡いピンクの花弁が
風で散って季節はずれの雪みたいにふって
視界を白く閉ざす



(綺麗)



それしか言葉が浮かばないのが勿体ない
でも降り注ぐ様に散る薄桃色に
ただ目を奪われる方が、それを表す言葉を考えるより良いと感じた



一本だけ植えた桜の根元に腰を下ろしその幹に身を預ける
見上げればやはり時折その枝を揺らす風に煽られて花弁が舞った



「綺麗だよね」



そう言ってくるりと振り替えれば
羽のアクセサリーを付けた強面の男が立っていた
薄桃色の世界に男の漆黒は良く映える



「何やってんだ」



えらく低いドスのきいた声で返事が返ってきた
竦み上がるような低温のそれも
今では声のトーンから彼の機嫌を読み取るコトが出来る位には慣れている



「お花見だよ」



休憩がてらにね、と付け足してからまた視線を桜に移す
こうしている間にも花弁はひらひらと落ちてくる
後一週間もすれば大半が散ってしまうだろう



(あぁ、もっと長く咲いてくれたら)


(もっとゆっくり見ることも出来るのに)



「オイ」



ぼんやりと桜に見入っていたのを呼び戻された
視線を向ければ、声の主であるザンザスは
先程より若干不機嫌そうだ



「何?ザンザス」



そう言われてどう返せば良いか解らない
用などないし、ただ呼んだだけだと言うには
きつく呼び付けた自覚がある

(それにこいつは
他の奴や、時には俺自身ですら自覚していない感情を
態度や声の高低から何時も読み取ってくる)



つまりは衝動で呼んでしまった後で
何、と聞かれても答えようがない訳だ



「ザンザス?」



どうしたの、と綱吉がまた笑った
その姿がはかなくて、桜の花に溶けそうに見える

色素の薄い髪や体に着いた桃色も
こいつを染め上げようとしてるみたいに



(嗚呼、イライラする)



黙り込んだ俺を見上げて
綱吉がポンポンと自分が座り込んでいる横を叩いた
座れと言うことらしい



「・・・・こんな綺麗なんだったら花見酒とか、さ
風流で良いと思わない?」



綱吉は横に座り込んだザンザスに言うと
頭上に視線を向けてサワサワと揺れる枝を仰いだ



「あんまり綺麗だから
なんだか飲み込まれそうになる」



「・・・・・・・・」



飲まれる、ではなかった
溶けていくみたいに
ふわりと笑う笑顔があんまりにも淡く見えた



「でもザンザスは染まらないね」



「はぁ?」



言われた意味が解らずにいると
最初に来たとき、俺が真っ黒だったから
桜吹雪の中でも良く目立ったのだ、と
笑いながら説明してきた



「おまえは溶け込みすぎだ」



業と呆れを含んだ声で言うザンザスに
綱吉はそうだね、と静かに答えて
舞い散る花弁に手を伸ばした



「じゃあザンザスがずっと傍に居てよ」



綱吉が振り向きざまに、軽い口調で紡がれたそれに
不意打ちの言葉に、目眩がしそうで

自分だけが動揺しているのが癪だったから
いきなり隣にいた存在の腕を引っ張り
強引に抱え込むように抱き締めた



驚いていたが、綱吉からは抵抗もない
胸にもたれかかってきた重みと伝わってくる体温が心地いい



「次は二人で花見酒でもしよっか」



しばらくしてからポソリと呟かれた言葉に
そうだな、と短く返した



強い強風が吹いてまた枝を揺する
振ってくる桜を見て腕のなかで綱吉が綺麗、とこぼして笑った

回した腕に少し力を込めて抱き締めれば
色素の薄い頭が擦り寄ってくる

今度はその言葉にすんなりと同意できた
見上げればまだ振ってくる花弁が
ただ頭上を桃色に染め上げていた













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