novel.02

□君と共有出来るモノは
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薄暗い部屋に明かりはなく
外から入り込む光も、厚いカーテンに遮られた部屋

そこに一人の男が大男に寄り添うように居た



「・・・・冷たい」



男がポツリと呟いた言葉に、巨漢は何も言わない
時折キュンキュンと聞こえる電子音と
冷たく固い体が、巨漢が人ではないことを物語っていた



「・・・・モスカ」



男はそっと鉄の塊のソレに手を伸ばす
ひやりとした感触が指に残る
固い固いソレに縋るように

大空はそっと目を伏せた




男の微かな呼吸音と機械の電子音だけが聞こえる薄暗い部屋で
大空の目にかかった色素の薄い髪を
機械の武骨な指がそっと撫でる



「モスカ・・・・?」



その感覚に目を覚ました大空は
自分の髪を撫でる機械の名前を呼ぶが
不意に感じた自分以外の人の気配に
意識をドアの方向に向けた



「入ってきたら?恭弥」



男がそう言うと分厚いドアが音を立てて開く

部屋に入ってきたのは黒髪黒目のこの部屋の主人よりも背の高い男だった



「綱吉、またソレと居たの?」



恭弥、と呼ばれた男は機械音を出す大きな人型のモノを指した

ソレと言われたモスカは
まるで部屋の主人を守るように腕の中に入れると
指に埋め込まれた武器を突然の来訪者に向けて威嚇した



「ねぇ、綱吉
ソレの何処がいいの?」



モスカの威嚇を気にもせずに
雲雀は綱吉に歩み寄る



「そんなのただの機械じゃない」



そういって綱吉と同じ目線に屈みこんだ雲雀は
そっと暗闇の中、僅かな光を受けて輝く金糸に手を伸ばす


その手が、触れる直前に雲雀は手を止めた

彼が声を出したわけでもなければ
何かしら行動を起こしたわけでもない
ただ、雲雀は自分の手が彼に触れそうになった一瞬
彼が煩わしそうに目を細めたのを見逃さなかった
だだそれだけだ



(君に嫌われるのが恐いなんて
馬鹿みたいだ)



大空は下ろされた雲雀の手を取り、優しく笑った



「俺は人間なんかより機械の方が信用できるよ
だってモスカは裏切らない」



そして彼はそれを聞いて眉をひそめた雲雀の
黒髪を触れるか触れないか解らないくらいの弱さで撫でると

口元に鮮やかな笑みを浮かべて
(けれど決して目は笑ってない)
その薄い唇から軽やかに言葉を発する



「でも、恭弥も俺を裏切らないでしょ?」



「気儘な雲、お前は最初から
俺のモノなんかじゃないもの」



そう言う彼の唇はまだ弧を描いている
この言葉は大空の本心なのだと思うと
すとん、と冷たいものが体内に落ちてきたみたいな感覚がした



(空が無ければ雲は何処にも行けないのに)



黙り込んだ雲に空がまた口を開いた
何時もより冗舌なのは彼の機嫌の良さを表している



「恭弥が機械より人を信頼できるなら
きっと俺と共感できるモノんてないよ」







『君と共有出来るモノは』

随分前に君が捨てて、僕が見失った
(或いは君が捨てさせられて、そして僕が見もしなかった)








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