novel.02

□軋まないドアの音
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キリリ、キリリ、キリリ

締め付ける様な痛みは、もう決して消えてくれない







罠だと分かり切った“話し合い”を
あいつは何の躊躇いもなく承諾した


彼は若くしてボンゴレを引継ぎ、その頂点に立つ王だった
罠だと気付かない程愚かではない
待ち構える敵を一人で蹴散らせると考える程、傲慢でもない
それしか手が無いと思い込む程浅はかでもない

けれど
彼はただ静かに微笑んで



「行ってくるよ」



そう言って出ていった

(そしてもう、同じ姿では帰ってこなかった)



彼が出ていった扉を見つめて
またキリリと胸が痛んだ



彼はただ一人、付いていこうとする守護者も部下も誰もかれも置いて一人で死にに行った
(あいつ一人で行くことがあちらの出した条件だったけれど)



自分は知っていた
彼が静かに、密かに、焦がれるように、そっとそっと
何時かその身に降り掛かる『死』を待っていたのを
ずっと前から知っていた



だから止めようとしなかった
嬉しそうにこの場所を去ろうとしている彼を、
止めることは出来なかった


あの大空が、自分の師であり、家族であり、一番信頼していた漆黒の死神を亡くした時
後を追いたいと願っていたことも
死神が大空を思いながら逝ったことも
大空の心がずっと居なくなった死神に向けられていたことも
全て全て知っていた

彼が愛する死神の跡を追えなかった理由、も

(あの何時までたっても甘っちょろいボスは
ファミリーを守るために死ねなかった)



(自分もあの大空をずっと見ていたから知っていた)


キリリ、キリリ
また胸が痛む

あのドアを開けて出ていったあいつは、もう戻らない
軋む音一つたてもしないドアの代わりに
痛む胸がキリリキリリと悲鳴を上げる



(嗚呼、堂々巡りだ)



きっとあの大空が死神を想っていたように
自分も大空を想っている



(後を追えたら、どんなに良いだろうか)



けれど追い掛けるのはもう少し先になってしまうだろう



王を奪ったあいつらに罰を彼を殺した愚か者を殺して
あの大空の逝った銃で、同じ場所で
彼を思って自分も逝こう



(あいつと同じ場所に行ける訳ではないけど)



あいつはきっと最後は笑っていけたのだろう
棺に横たわる彼の顔は安らかで、眠っているようだったから

(ファミリーを守るために死ねなかった彼が、
ファミリーを守るために死を選んだ)


・・・・ファミリーのため、
自分を生に縛り付ける理由が
自分を殺してくれる理由になったときに
彼は何を想ったのだろう



キリリ、キリリ、キリリ
嗚呼、この痛みも
きっともうすぐ分からなくなる








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