novel.02

□埋まらない空洞
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カラリ、カラリ、カラリ

少しずつ、けど確実に崩れていくそれを
止められる人はもう居ない






彼の大事な大事なファミリーを餌に
出来るだけ逃げ道を塞いでから
確実に彼を手に入れられるように整えた場所に彼を呼んだ


ボンゴレを統べる王、すべてを包括する大空
罠だと知っていて、それでも彼は要求通り一人でやってきた

明らかに不利だったあの場所で
それでも静かに笑っていた



「ファミリーを捨てるなら命まではとらないよ?」



笑みを崩さなかった彼に、そう言った

(だって僕の本当の目的はソレだったし)



けれど彼は笑って、その誘いを断った
彼は、僕のモノになることより死を選んだ
どうして何時も君だけは、手に入らないのだろう
カラリ、また何かが音を立てて崩れていった



本当は知っている、彼の心を占めるモノがなんなのか、彼の大切なモノがなんなのか
(ファミリー、守護者、そして・・・・あの忌々しい黄色のアルコバレーノ)



特に、もう死んだくせにまだ彼の心を捕らえている死神
全部全部邪魔で仕方がない

だから、僕は邪魔なものを全て消してしまいたかった
ただ彼だけが欲しかったから



でも、本当は気付いていた
彼の目がもう何も映していないことを
彼が執着しているものなんて、本当は無いことも
彼が何処かで死を受け入れ、望んですらいることも


彼が、あの大空が自分のモノになることは無いということも全て
理解したくはなかったけれど、知っていた
あの人の強い意志を知っていた
彼にとっての特別が何だったかも知っていた


でも、諦めることも出来ないほどに、あの炎にただ焦がれた

(手に入らないと分かっているのに
手を伸ばさずにはいられなかった)



(邪魔で邪魔で仕方がないボンゴレという組織の、愛しい大空)


カラリ、カラリ
彼を失ってから、少しずつ何かが崩れていく


突き付けた銃、引き金にかかった指
銃口を向けた先にあった彼の
静かな笑顔、澄んだ瞳、柔らかい空気


(嗚呼、今でも鮮明に思い出せる)



響いた銃声、飛び散った赤、倒れた体
安らかな、彼の表情


(ただ無償に泣きたくなった)



手に入らないなら、と確かにそう想っていた
だって彼の意識はいつもたった一人に向けられていて
ソレを見るのは苦しかったから



(殺しても手に入らないなんて知っていたけれど)



火薬の匂いがだんだんと薄れて消えた
強い血の匂いにも、だんだんと鼻は麻痺してきてしまった
パァン、という銃声とともに何かが静かに静かに崩れだした音が
カラリ、カラリ、カラリ
耳の奥で響いていた



(炎は二度と灯らない
あるのは照らされることのない闇ばかり)








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