novel.02

□籠の鳥の蒐集 前
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別にどうだっていい
好きにすればいい
だってどうせ俺は



「一生此処で飼い殺しなんでしょう?」



綱吉はそう言ってそれまで口にしていたアルコールの入ったグラスを持つ手を緩めた
ガシャン、と音を立てて砕け散るグラスと上等の絨毯に広がる酒

しかし、綱吉の視線はずっと一人の老人に向けられていた



「そんなこと言わないでおくれ、綱吉」



彼は綱吉の不機嫌を隠そうともしない視線に
ただ困ったように笑うだけだった
ソレが更に綱吉の機嫌をそこねる


ガシャン、と
先程より幾分か小さな音を立ててまたガラスが砕けた
靴の底で踏み付けた破片はもうグラスだった時の原型を留めていない



「否定しないって事は、自覚があるんでしょ?
この狸ジジイ」



顔には笑顔を貼り付けてはいるが
その刺々しい言葉と、殺意を隠す気すらないような視線に
それでも老人は怯むことはなかった



「ボンゴレにはお前が必要なんだよ」



綱吉には老人の落ち着いたその声も、精神を逆撫でするものでしかない
しかし彼は普段の仕事も関係してか、あまり感情の起伏が激しくはなかった
不機嫌になったりソレを滲ませる態度をとったりはするが
感情のままに怒りを露にしたことはない

何より、狸ジジイと称した老人の前では更に感情を押さえている節がある



「そうやって俺を次期ボスにでも引きずり込む気?」



綱吉はこの老人、ボンゴレ九世が自分を後継ぎに仕立て上げようとするのが何より気に食わなかった

綱吉はもともとボンゴレ所謂マフィアなどといった物騒な世界とは関係ない世界で生きてきた
だがこの老人が後継ぎ候補が全員死亡したというのを理由に
まだ幼かった綱吉に接触してきたのだった

その情報が敵対していたファミリーに渡ったらしく
九代目との接触から数日後、綱吉の家族は襲われた
彼の両親はまだ幼かった綱吉を庇い殺された

真っ赤に染まった視界の中で
彼の中で何かが音を立てて崩れた気がした

綱吉はとっさに自分を襲った人間の銃を奪い
躊躇いなく引き金を引いた

通常ならばありえない
まだ幼い子供が銃の扱いを知るはずはも
銃が発砲するときの衝撃に耐えられるはずもなかった

しかし、敵対ファミリーの衝撃に気付いた九代目が駆け付けたとき
血の海と言える目を背けたくなるような惨状のなか
また幼い彼だけがその場に立っていた
その額にボンゴレの証とも言える炎を灯して

それからずっと綱吉はこの世界に生きてきた



綱吉には長い間この世界で生きてきて、ずっと変わらない一つの考えがあった



(マフィアほど愚かしいものはない)





「俺を十代目にしたいならしてみればいいさ
すぐに全部ブッ壊してやる」



彼はそう言って
用は済んだとばかりに立ち上がり
老人のまえから立ち去った








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