novel.02

□後はただ朽ちるのを待つばかり
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むせ返るほどの花の匂い、目も暗むような晴れ渡った空が
これ程忌々しかった日はないだろう


皆が皆辛気臭い顔をしていた
見慣れすぎた奴ばかりが集まって
ただ無言で各々の考えに、思考に浸っていた

傍から見れば随分滑稽な姿だろう、いい大人が雁首揃えて黙りこくっている所など・・・・
雲雀はそれでも自らの胸の内に処理しきれない感情を抱いたまま
花の匂いで満たされたその場を立ち去った
止めるものなど居ない、皆、周りなど目に入っていない
見ているのはただ黒塗りの細やかな細工に飾られた棺だけだったのだから


誰も居ない場所に歩いてきた雲雀に、覚えのある気配が近づいてきた
大空の、彼の人の、霧の守護者
自分と一番馬が合わないと言われていた、六道骸


骸は至極楽しそうに笑い、雲雀を見ていきなり口を開いた



「溺れることを戸惑ったからですよ」



奴はそういって笑った
意味は分からないが、奴の言葉はひどく勘に障った
気に入らないのは昔からだったけれど
何時もより殴り倒したい衝動は強く、僕の中を駆け巡る



「何物にも捕われないようにして居たから、駄目だった」


人を小馬鹿にしたように話すその男は
愛しそうに手にしていたソレを・・・・シンプルな装飾の小さなボックスを撫でた



「それに触らないでくれる?」



イライラした
頭の中がまとまらないような、かき乱されるような
とても不快な感覚



「君にとやかく言われる筋合いは無い
君は縋りも出来なかったのだから」



勝ち誇ったような、優越感に満たされた表情で
奴は指で慈しむようにボックスを撫でた



「ねぇ、この箱の中身、教えてあげましょうか」



「いらないよ、欝陶しい。噛み殺されたい?」



「これね、炎が入ってるんです」



骸はすいっとボックスを空にかざすように持ち上げた
眩しそうに細められた目は、それでも愛しそうに



「彼の、美しいオレンジ色の炎が」



それがどうしたと言うのだ、その言葉は口から出てこなかった
もう見ることも、触れることも出来ない彼の命の色

骸の彼への執着は並々ならないものになっていた
いつのまにか、けれど徐々に徐々に、深く重く
それを十分過ぎるほど知っていた彼は
超直感により自分の死期を悟った直ぐに骸を呼び出し箱を渡した
霧のリングで開口出来る物を
それは骸が前々からねだっていたもので、彼が与えようとはしなかったもの
大空の、彼のオレンジ色に燃える炎



「僕が死ぬときは彼の炎で死ぬ
彼の命に燃やされて逝けるなんて、幸せな最後でしょう?」



奴が彼に常々言っていたのと同じ言葉を吐いた
違っているのは、骸が既に望んだものを手にしていたこと



「君だって僕と同じくらい彼を欲してたくせに」



奴がこちらを見て笑った



「縋ろうともしなかった
彼に溺れていたくせに、それを否定した」



「雲であることを選んだつもりなら愚かとしか言いようがない
君は彼に捉われていた」



骸は可笑しそうに、だが淡々と喋る
その目はこちらを向いていなかった



「空を失った雲がどこにいけるのか」





そう言った骸自身の目にも
ただ深い絶望が滲んでいた








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