AKG Novel.

□飛べない魚 前
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耳の皮膚に刺さった銀
自分で開けたのがいけなかったのか


鈍く光る銀色が赤く腫れた皮膚にはいっそ毒々しかった




「痛い・・・・」



相変わらず痛みを訴える腫れた皮膚には
まだ銀色が貫通したままだ

いい加減外さなければこちらの肉が腐り落ちてしまうかもしれない



ジクジクと響く痛みを無視してしまいたい
けれど異物に貫かれた肉は痛みを訴え続ける



綱吉は痛みを紛らわす為に自室に備え付けられたバスルームに足を向けた



「・・・・痛い」



ぽつりと呟いた声は小さく、部屋に響くことはなかった



蛇口を捻ると湯気を立てて熱い湯が浴槽に溜まっていく



湯槽にはった水面が上がるのに比例して辺りには湯気が充満する

何故がソレが心地よく、綱吉は換気もせず
ぼんやりと揺れる水面を眺めた



「何してるの」



暫らくそうしていたところに声がかけられた

振り替えるのも億劫



「・・・・ぼんやりしたい時もあるんだよ」



目線はそのままで答えると、後ろから手が延び蛇口を捻った



「馬鹿だね」



「どうも」



「どうしたの、らしくない」



綱吉の返事に違和感を覚え、雲雀は怪訝そうに問い掛ける



「なんでもない」



少し低い声で呟く綱吉を眺め、何故だか少しイラついた



「噛み殺していい?」



未だ浴槽に手をかけ、水面を眺める綱吉に目線を合わす様に腰を折る


いい加減ひどく湿気が充満した空間に居るのも嫌気がさす



「やれるものなら」



返ってきた短い答えにまた苛立ちが募った


綱吉の考えていることが解らない
この蒸し風呂状態のバスルームで服を着たまま床に座り、浴槽にもたれかかっている
目線はずっとゆらゆらと揺れる水面に固定されたまま



(あぁそうか)



苛立ちの正体が解り、
思いがけない理由に肩透しをくらったが妙に納得できた



思い立ったら行動だ、と

雲雀は目の前の細い肩を掴み、
体を引き寄せそのまま腕に収めたそれを浴槽に落とした



ザバッと水が跳ねる音と共に体は熱い湯に落ちる



「なにするんだ恭弥!」



湿った空気に少し荒らんだ声が響いた


(あぁ、やっと)



「やっとこっちを見たね」



そう言えば琥珀の瞳を大きく見開き
次に呆れたような顔をされた



「何がしたいの、恭弥」



「さぁね」



機嫌よさげに口の端を釣り上げた男に
どう対処するべきか考えると頭が痛かった



服を着たまま湯の中に落とされ、
逃がさないとでも言うように浴槽のふちに手を突き

こちらを覗く漆黒に目を合わせれば、
漆黒が細められまた機嫌が良くなったのが解った



(本当に何がしたいんだ)








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