AKG Novel.

□飛べない魚 後
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ため息を吐きへばりついた髪を掻き上げると
今まで忘れていた鈍い痛みがよみがえる



どくり、どくりと心音に合わせて痛むソレに僅かに眉をしかめれば、
目の前の人は目ざとくそれに気付いた



「綱吉、ソレ何?」



すっと伸ばされた手に触るな、という意志を込めて睨めば
触られはしなかったが眉を寄せられた



「開けたんだよ」



手短に答えてそっと赤を通り越して紫掛かったそこに手を伸ばす
銀の刺さったままの皮膚に触れば異常な熱を孕んでいた



「自分で?」



「さぁね」



はぐらかしてしまえば更に機嫌は低下したようだが
こっちの知ったことじゃない



「ひどく膿んでる」



「知ってる」



「そのままじゃ腐るよ?」



「知ってる」



「何で取らないの」



「なんででしょう?」



上辺だけの笑顔を貼りつけて答えれば睨まれた


(さっきまで上機嫌だったくせに)



「一生残る穴になるなら、僕が開けたかったね」



「俺に幹部の人数分開けろって?
嫌だよ、そんなに要るものじゃない」



「僕だけでイイじゃない」


そう呟いてすっと近付き
赤紫に腫れた皮膚を唇で軽くはむ



「っ」



息を詰める音が聞こえる


(あぁ、やっぱり痛いんだ)


「綱吉」



腫れた耳をはんだまま、囁く様に名前を読んだ



「恭弥、止めろっ」



上ずった声で名前を呼ばれる
寄せられた眉と、肩に置かれた手に
一瞬背筋が震えた



「噛み殺す」



わざと耳の弱いところに唇を寄せ、甘く囁いた

閉じ込めた細い肩がビクリと震えたのは
痛みの為かそうじゃないのかは関係ない



腫れた箇所に舌を這わせる

くっと肩に置かれた手に力が込められた



白いはずのそこは赤く腫れ、銀に光る針が刺さったまま


(邪魔・・・・)


腫れ上がりもはやキャッチもはめられなかったのだろう
尖ったピアスの先を舌で軽く突けば刺さった銀は少し動いた



「恭弥!!」



制止の声など意味も無い
むしろ煽るばかり


けれどこの琥珀のボスが本気で抵抗すれば自分も適わない
今のうちなら戯れですましてやろう、と瞳が冷たく語っていた
無言の制止



「・・・・外してもいい?」



言外に、それで君を離すから、という想いを目で、態度で訴えれば
目の前の琥珀は諦めたように頷いた



「このままにしても固定せずに腐るだろうし、
恭弥がそうしたいならいいよ」



それを聞いて腫れた耳から抜き取ったピアスは
少しの血を纏い光に照らされ少しばかり輝いた



やはり痛むのだろう
深い琥珀の瞳が僅かに細められた



(あぁ、ほら綺麗)



「今度は僕が開けてあげるよ」



(君が僕を忘れたくても出来ないように)



心からの笑顔で笑えば、綱吉はもう勘弁して欲しい、とこぼし
腫れた耳を撫でて綺麗な顔で少し笑った








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