AKG Novel.
□サイレン side.H
1ﾍﾟｰｼﾞ/1ﾍﾟｰｼﾞ
「貴方は要らないって言いました
だから、欲しいって言ってくれた人に渡したいんです」
綱吉はその手に置いた雲を象徴する指輪を愛しげに眺め
雲の守護者であるべき雲雀に向かって
柔らかく笑った
「ねぇ、どういうこと？」
応接室のソファに向かい合って座り話していた最中
綱吉は思い出した様に鞄から一つの指輪を大事そうに取り出して
向かいに座る雲雀に笑い掛ける
その顔は心から笑っている様で
けれど今だけはひどく不快だった
「欲しいなんて言う奴がいたわけ？」
若干低めの自身の声のトーンに疑問が浮かんだ
自分は苛立っている？何故？
「はい、俺の守護者になってくれるって
イタリアに着いて行くって言ってくれたんです」
「誰に言われたの、僕より強い奴なわけ？
そう言えば綱吉は一瞬きょとんとした顔になると
くすくすと控えめに笑いだした
「恭弥さん、さっきから質問ばっかりですね」
掛けられた言葉に反応が遅れた
確かに目の前で笑うこの少年の言葉を聞いてから
疑問ばかりが頭を巡って止まらない
確かに今までどうでも良かった
指輪も、その指輪の意味も
守護者と言う立場も
将来自分が就くだろうマフィアというものも
確かにどうでも良かったはずだ
「貴方はコレをどうでも良いと思ってたはずだ」
まるで思考を見透かされたみたいに
綱吉の言葉が投げ掛けられる
何も反応が無い僕など気にしない様に
彼は自身の白い手に置かれた雲を象徴する指輪を愛しげに眺めていた
まるで慈しむ様に、まるで壊れ物にでも触れるような手つきに
内側に黒い感情が走る
違う、と
そう言おうと口を開きかけた時
出そうになっていた言葉を、綱吉が遮った
「でも恭弥さんはもう関係ない
ボンゴレとも、マフィアとも
この指輪にも・・・・俺にも無関係なんです」
「いいでしょう？貴方は今まで全てに無関心だったんですから
ねぇ、『ヒバリサン』」
すっと目線を合わされて、強い意志を湛えた琥珀の瞳がこちらを見ていた
彼がその目にただ自分だけを写したという事で高鳴った心臓と
発っせられた言葉に冷えきった感覚がアンバランスで
足元からザッと体が冷えていく気がした
まるでいきなり地面が崩れて落ちていくような感覚
「確かに貴方は『雲』でした
それに鳥でもあった」
「だけど俺は鳥より
傍に居てくれて俺を必要としてくれるあの人を選びます」
にこやかに笑っている彼に
自分はそう、と短く呟く事しか出来なかった
不思議と声は落ち着いていて、顔は無表情のまま
それじゃあ、と言って部屋を出ていく彼を呼び止める事もせず
ただ座ったままの自分に嫌気がさした
しばらくして頬を伝った雫に
あぁ、自分は彼が必要だったのだと気付く
気付くのが遅すぎた
彼が言ったとおり、自分は雲であり鳥だった
雲も鳥も、空がなければ何処にもいけない
一人だけ残された部屋で
ただ茫然と空を見上げた
.