AKG Novel.

□サイレン♯ side.T
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「貴方は要らないって言いました
だから、欲しいって言ってくれた人に渡したいんです」



自分の手に置かれた雲を象徴する指輪を眺め

雲の守護者であるべき目の前の愛しい人にに向かって
柔らかく笑って心からの嘘を吐き出した




「ねぇ、どういうこと?」



応接室のソファに向かい合って座り話していた最中
俺はまるで今思い出した様に鞄から一つの指輪を取り出して
向かいに座る恭弥さんに笑い掛ける


嘘を見破られないように今にも歪みそうになる顔を必死で耐えた
手の中の指輪だけが支えに感じる



「欲しいなんて言う奴がいたわけ?」



若干低めの彼の声のトーンに心臓が震える
自分は失うことを恐がってるっている?何故?



「はい、俺の守護者になってくれるって
イタリアに着いて行くって言ってくれたんです」



「誰に言われたの、僕より強い奴なわけ?



そう言えば綱吉は一瞬きょとんとした顔になると
くすくすと控えめに笑いだした



「恭弥さん、さっきから質問ばっかりですね」



自分で紡いだ言葉に嫌気がさす

彼の言葉を聞くたびに、決心が揺らぐ
迷惑だと思われていても、彼の自由を奪ってしまうかもしれないとしても

傍にいて欲しいと願ってしまう




彼は要らない、とはっきり言った
それで決心がついた筈だ


指輪も、その指輪の意味も守護者と言う立場も
将来彼が就くだろうマフィアというものも

どれも彼が自ら望んだものなんて一つも無い



「貴方はコレをどうでも良いと思ってたはずだ」



自分の淡い期待を振り切るために
彼に言葉を投げ掛ける



何も反応が無い彼の顔を見ることも出来ず
自分の手に置かれた、最後に一つだけ残された雲を象徴する指輪を眺めた


これが彼の物だったと思うと、自然に
まるで慈しむ様に、まるで壊れ物にでも触れるような手つきになる自分が情けない



振り切るように

彼が何か言おうと口を開きかけた時
その言葉を聞きたくなくて、自分の声で遮った



「でも恭弥さんはもう関係ない
ボンゴレとも、マフィアとも
この指輪にも・・・・俺にも無関係なんです」



「いいでしょう?貴方は今まで全てに無関心だったんですから
ねぇ、『ヒバリサン』」



すっと目線を合わせて、恭弥さんの漆黒の瞳を見つめた
彼がその目にただ自分だけを写していたという事で高鳴った心臓と

自分が発っした言葉で、冷えきってしまった感覚がアンバランスで

また泣きそうになってしまった



「確かに貴方は『雲』でした
それに鳥でもあった」



「だけど俺は鳥より
傍に居てくれて俺を必要としてくれるあの人を選びます」



にこやかに笑ってそう言った俺に
彼はそう、と短く呟く事しかしなかった


不思議と声は落ち着いていて、顔は笑顔のまま



それじゃあ、と言って部屋を出ていく自分に
恭弥さんはもはや興味もわかないみたいだった



始終無表情だった彼に
彼の中の自分の存在がこれほど些細な物だったと思い知らされる



しばらくして頬を伝った雫に
胸が詰まって唯一残された指輪を握り締めた


彼は雲だった、彼は鳥だった
手にする事なんて叶わない、自由でなければいけない人



次々と溢れる涙を無視して
持ち主すら居なくなった一つの指輪を握り締めた











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